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どこまでも続くような、暗い階段。
そこに眠る闇は、発光体以外を飲み込み永久の深みへと誘うかのようだった。
その闇を、硬いブーツの音が進んでいく。
金色の長い髪の毛は、淡く光を放っているように、暗闇に映えている。
ブーツの主は、闇の中でも目が利くのか明かりを持っていない。
と、ブーツの音がやんだ
キィィィ――――
扉のきしむ音が聞こえ、再びブーツが響いた。
またすぐに止み、次は声が聞こえた。
「相変わらず、汚い所」
そう言いながら、円を描くようにしつらえられた八つの蝋燭に火をつけていく。
「さて、と」
静かに揺らめく炎に映し出されたのは、長い金髪の、黒い戦闘服を着たジュン・マクシミルだった。
――――オオオォォォォォォ
彼女の左手に取り付けられた大き目の黒い石から、唸り声が聞こえる。
ジュンが、手を奇妙に組合せ、精神を集中させながら何かをつぶやき始める。
「――――――」
彼女の髪の毛が、風も無いのに舞い上がった。
―――オォォォォ―――オオオォォォォォ
黒い石が、歓喜の咆哮を上げているかのように、一対の紅い光が浮かび上がり明滅した。
都市の外は荒野である。それは、大体の場所で変わらない。だから、エアライダーという物が出来たのだが。
その荒野に、ぽつんと少し大きめのテントが一つ。
「よう、遅かったじゃねぇか、リゼ。また遊んでたのかい?」
テントの真ん中あたりで火がたかれている。その火を見つめていた赤髪の、獣のような眼つきをした男が、銀髪の男、リゼに問いかける。
獣人―通称ビースタンと呼ばれ、戦闘能力に優れた種族である。亜竜人とは違い、並外れた腕力は無いが、平均的な戦闘力は侮れない。この赤髪の男も、そういう者の一人であろう。
「――――まぁ、そうだ」
リゼが濡れた身体を拭きながら言った
「なんだか、落ち込んでるじゃねぇか。もしかして負けたのかい?」
銀髪の男はゆっくりと首を振る。
「いや、違う」
「そか、ま、当たり前だがな」
「で、まだ『記憶』の手がかりは見つからないのか?」
赤髪の男から離れて腰掛けていた、痩せた長い黒髪の男がリゼに問いかける。
「全員、トレーニングは怠るな。雨がやんだら、情報収集を再開しろ」
「はいはい」
バサッ――――
その時、テントの近くで、何かが羽ばたく音が聞こえた。
「ふう、濡れちまったぜ」
テントに入っていたのは黒髪の男、背中には、背丈ほどの蝙蝠のような翼がついている。
種族で言う。悪魔種族だ。
「遅かったな、もう帰ってきてると思ったのだが」
「へっくし―――」
悪魔男が、くしゃみをした。
「いや、な。かなりの量の法力を感じたから、探りを入れてたんだ」
法術を使うための媒体、法珠をつけている者は法力の磁場―流れ―を感じることができる。そのため、法術士対法術士ではなかなか勝負が決まらないことがある。
「どこだ?」
リゼが、問う。
「いや、それが良くわかんねぇんだ」
「お前がわからんとは、珍しいな」
悪魔男はへへっと笑い。
「全くだ」
燃え上がっていた炎は、雨にうたれて小さくなっていた。その真ん中には、人影が立っている。
「ピリピリする。ひでぇなぁ、一張羅が焼けちまった」
炎の中から、何かの塊がドサッという音と共に飛び出し、地に落ちた。
そして、人影が現れる。それは、全く無傷の、しかし黒いシャツ姿のグリードであった。
両腕の辺りから「ピシィ」と、何かが爆ぜる音が聞こえた。それは、電撃を喰らった名残であった。
彼の皮膚は、通常の人間より硬い、それは彼の能力に耐えるためにそうなっているのだが、こういうときにも役に立つ
「―――また買わねぇとな」
落ちた塊を見つめる。それは電撃に耐え切れずに焼けた戦闘服であった。かなりの熱にも耐え切れる特殊繊維で作られているそれが、一瞬で焼けてしまったが、他の服には被害が無いので、彼は良しとした。
「ったく。せっかくの散歩が台無しだぜ」
そう言って、もとの道を戻りだした。
「へ、へ、へぃっくし!」
雨がふる音の中、カ○ちゃんばりのくしゃみが響き渡った。
「ふう――――」
つけた蝋燭はもうほんの少しになってしまっている。
彼女が行っていたのは、精神統一であり召喚法を扱う法術士が使い魔の力を高めるために行うものである。ただ、かなりの法力を使用するので毎日できるわけでもないのだ。
部屋の扉へ向かい、もと来た階段を上がっていった。
「あ、姉さん。おかえりなさい」
「ただいま」
シューが、白衣を着て何かをいじっている。
「また、なんか変なもん作ってんの?」
ジュンが、弟の手元を覗き込む。
「変な物だなんて―――」
「じゃぁ、何よこれ」
シューが今いじっている物を指差す。
「これは、ちょっとアセちゃんに頼まれましてね」
「へぇ、何に使うの?」
シューはふふふと笑い、
「また、エアライダーを改造するみたいですよ」
「はふ〜、今日は雨だったから、被害者さんは少なかったですね〜」
隔離都市C・G本部で、制服を着た少女、イブがイスに座り込む。
「そうだな、一人か」
もう一人の男が、ひときわ大き目のイスに腰掛けた。
「でも、変ですね。リーダー」
イブが、男、アーリィの方を向いて言う。
「そうだな、奇妙な燃え跡と、あれ―――」
少女の近くの机の上に置いてあった袋をあごでさす。
「なんなんでしょうね。コレ」
イブが袋をてしてしと叩く。
「こらこら、叩くな。燃えカスだからくずれるだろ」
「は〜い」
叩いていた手を戻し、今度はしげしげと見つめだす。
「もしかしたら、コレが事件をとく鍵になるかもしれませんね」
「そうだな」
『リーダー―――』
彼の懐のあたりから、男の声が聞こえた。無線機である。
「どうした?」
『目撃者が見つかりました』
「で、なんて言ってた?」
『はい―――それが、轟音がした後に、少したって路地から出てきたのは黒シャツ、黒髪の男ということなんです』
「何?」
アーリィはいぶかしげな顔をする。
『黒シャツの黒髪の男です―――』
「――――分かった。報告ご苦労さん」
『―――はい』
アーリィが大きく息を吐きながら、イスに沈み込む。
「どうしたんですかぁ?」
イブが問いかける。
「ああ、よく分からん」
「はぁ―――」
アーリィがもう一度袋を見つめ
「ま、とにかく、明日アレを研究局で調べてもらおう」