―――第一危険地帯(ふかいもり)―――

 そこは、死の香りのするところ。そして、生命(いのち)(うごめ)くところ。

 異様の咆哮が絶えず聞こえる、異様の(けだもの)の棲家。

 ――――そこに、四つの影が足を踏み入れた――――

「ふい〜、ここも久しぶりかな〜」

「ん?そんなに来なかったか?」

「皆で行くのが、だよ〜」

「そうねぇ」

「・・・そうだな」

 アセンブラ、ラスナ、グリード、ジュンの四人。特に緊張感も無い様子で、森の中の獣道を歩いていく。

冷たい風が彼らの頬を撫で、小さな草を凍えさせる。

「どれくらいでつくかな?」

 アセンブラが、ラスナに聞いた。

「・・・さあな。トカゲの巣までは二時間もかからないだろう。そこからは分からない」

 トカゲの巣―――正確には森トカゲの巣、あまり変わらないが。多くのハンター達にはそう呼ばれている場所である。森に住むクリーチャーの中では猿型以上の知能を持つ蜥蜴人型クリーチャー達の巣のことである。凶暴・凶悪な彼らは、森の悪魔であると言われている。

 その四人を少し遠くから追いかける別の四人がいるのをアセンブラ達は知らなかった。

 

 そしてもう一組―――

 アーリィとイブの二人、彼らはアセンブラ達四人から少し離れた茂みの中にいた。息を殺しながら、両手には木の折れ端を持っている。

「あのあの、リーダー」

 イブがアーリィに小声で話し掛ける。

「なんだ?」

「ちょっとまずいんじゃないんですかぁ?」

「うむ、やはり近づきすぎたか・・・」

「そぉじゃなくてぇ・・・仕事置いてこんな所まで来ちゃうことがですよぉ」

「何を言う、コレも仕事だ。俺らがいなくてもC・G総動員すれば、暴れている奴一人くらいは捕まえられる」

「う〜ん、そぉかなぁ・・・」

 その時、アーリィが何かに気付いたようだ。

「シッ・・・誰か来る」

「え?」

 二人は再び息を潜めた。

「ん?あいつら・・・?」

 歩いてきたのは、リゼの一行だった。

「見たこと無い顔ですぅ。それにどう見ても悪人ですぅ」

「確かに、悪人顔だな」

「リーダー、人を顔で判断してはいけないですよぉ」

「・・・」

 返す言葉が無く絶句したアーリィだが、リゼを見たとき、顔をしかめた。

「あの男・・・」

「どうしましたぁ?」

 イブがたずねる。

「間違いない、あいつ遺跡荒らしのリゼ、リゼ・フォリスだ。いや、他の奴も見たことがあるのがいるな」

「・・・むむぅ、知らないです」

「こりゃ、結構やばいかもな・・・」

「んじゃ、帰りますぅ?」

「いや、久々に燃えてきた・・・」

 

 まっすぐな獣道は、彼らの目の前でプツリと途切れていた。それは、何かを避けるように――――

「さ〜てと、こっからが本番だな」

「できれば、奴らに見つからずに行きたいけど・・・」

「それは、もう無駄だな・・・」

「ほぇ?」

 アセンブラが、疑問の表情を浮かべる。どうやら、彼女以外は何かに気付いているようだ。

「そうねぇ・・・」

「アセ、集中してみろ」

「むむむ・・・お」

 アセンブラも、ようやく何かに気付いたようだ。

「分かった?」

 ジュンが尋ねた。

「うむ、すっかり囲まれているね。数は・・・たくさん」

「どうする?」

 ジュンが、ラスナをちらりと見る。

「・・・突破する」

「それしかないけど・・・」

「アセ、一人で・・・行けるわな」

「当たり前なのだ!各個撃破!みんな位置はわかってるか?」

 アセンブラが前に出て、左手に持った刀を引き抜き、目にも止まらぬ速さでぶんぶん振り回した。そして、体の前で水平に鞘におさめる。小気味のいい音があたりに響いた。軽い準備運動である。

「ああ・・・」

 ラスナが背中から大きな刀を抜き取り、軽く降る。

「集合は、遺跡前だな。競争すっか?」

 グリードが、間接を鳴らす。

「馬鹿、そんなことしないわよ」

 ジュンが、長い金髪をかきあげる。

「面白そうなのだ」

 アセンブラが、にぃと笑った。

「・・・来る」

「行くぞぉ!」

「おっしゃぁ!!」

 アセンブラ達四人は前方へと走る。

 それと同時、茂みから一斉に緑の影が飛び出して来た。大きさは身をかがめた姿でも、人間の大人と同じ大きさくらいだろうか、トカゲに似た頭に、鋭くとがった爪を持った異形の生物。中には武器を持った者もいる。森トカゲ、その名で呼ばれるのが彼らである。

 戦闘開始――――

 

 数匹のトカゲ達が着地したとき、アセンブラ達はそこにはいなかった。

「あはは、遅い遅い」

「先に行っておけ。俺はこいつらの腕試しだ・・・」

「分かったわ、アセちゃん。また後でね」

 ジュンが森の中へと消えていく。

「うむ、またね〜」

 アセンブラが、ラスナに手を振る。

「んじゃ、おさき〜」

 グリードも、走っていった。

 トカゲが後ろをふり向く、ラスナを残してアセンブラ達が走り去るのが見える。

 トカゲ達が一歩前へ踏み出す、すると

 ――――ズル

 異様な音が聞こえ、トカゲ達の上半身がずれる、そしてそのまま地面に落下し重い音を立てた。

 他のトカゲ達がそれを呆然と見つめる中、ラスナは少し笑ったように見えた。

「アセ・・・流石だな」

 そうつぶやいた後、ラスナはトカゲの集団を見据えた。

 

「グルル・・・」

 獰猛な唸り声を上げながら、周りを見渡す異形の者達。近くに何者かの気配を感じているようだが、見つけられないらしい。

 ガサガサ――――

 突然彼らの頭上で音がした。彼らは上を見た。その時―――

 ガシッ!ドサァァ――――

鷹爪(ようそう)・・・」

 その中の一体が何者かに突然首を巨大な手に掴まれた。そしてそのまま、地面に叩きつけられる。

地摺(ぢず)りぃぃぃ・・・!」

 グリードである。木に上り、手を魔手に変え、一体に飛び掛ったのだ。トカゲを、地面に密着させたまま、前方へと走り出す。トカゲは暴れるが、グリードの巨大な魔手にがっしりと掴まれた首は外れようとしなかった。

 少しばかり地面をえぐりながら、トカゲとグリードは森の中を高速で走り抜ける。

 

「邪魔ねぇ・・・」

 つぶやきながら、一定距離に近づくトカゲ達を次々に切り伏せていくのはジュンであった。その左手には召喚された剣が握られている。かなりのスピードで走ってきたので、既に目的地まで半分ほどの距離まできている。

「ええい、もう!セイブル、喰っちゃいなさい!」

 オオオオォォォォ――――

 左手の大きな法力石から、雄叫びが上がった。そして、緑であった大地を真っ黒な闇が覆いつくした。

「フン、しつこいのは嫌いよ」

「ガァァァァ・・・!」

 闇から伸びた口がトカゲ達を喰らい尽くしていく、断末魔の叫びと何かが砕ける音を残してトカゲ達の数がみるみる減っていくなか、ジュンは目的地の方を向き直り、歩き始めた。遠くでも、同じような叫びが聞こえている。

「あれは・・・グリードかしら」

 

「・・・・・・どうした?もう来ないのか?」

 ラスナはほとんど棒立ちの状態で、周りの敵達と対峙している。彼の足元には、六分割された数体のトカゲが転がっている。彼の言い様の無い殺気は、トカゲ達に初めての恐怖を起こさせたようだ。

「・・・いくらなんでも弱すぎる。もう用はない。退け・・・・・・」

「グルル・・・」

 一体のトカゲが、ラスナの放つ殺気に気が狂ったか、彼に襲い掛かった。

「・・・・・・」

 ラスナは動かなかった。一体のトカゲが、鋭い爪で切り刻む―――ことは無かった。トカゲはそのまま走り抜け、立ち止まる。

「グルルル・・・」

 ブシュゥ―――

 異形の物の身体に六筋の斬線が走った。そして、霧のように青い血を噴き出しながら地面に倒れ伏した。

 

 チィン――――

 先程から何度目かの金属音が響く、そして少し間を置いて、後方の数体のトカゲ達が青い液体の飛沫を上げながら地面に倒れる。

「むむむ、これが森の悪魔なのか・・・?」

 神速の剣閃になす術も無く倒れる敵達に、疑問の表情を浮かべながらも疾走するアセンブラ。

「うお・・・!?」

 ギィィィィィン―――――

 突然眼の前に現れた銀線にアセンブラは地面を滑りながら刃でそれを受け止める。

 一瞬その姿が見えたが、すぐに森の何処かへ消えてしまった。

「?・・・・・・くぅ!?」

 アセンブラが、その素早い影を避ける。

「くそぉ・・・次は、斬る」

 彼女は腰を落とし、左手の刀を腰に密着させる。それに右手を添え、深呼吸をする。

「しゅぅぅぅぅぅ・・・」

 彼女の周りの空気が、静かな殺気を感じて動きを止めたかのように張り詰める。彼女は目を閉じた。

 ザザザザザァァ

 風とも区別のつかない音が、辺りを駆け巡りアセンブラを狙っていた。

「・・・来る」

 シュッ―――――

 森の闇から飛び出す高速の銀閃と、小さな少女の放つ神速の刃が交差する。

「むう、驚いたな。トカゲにも居合ができるのか・・・だけど、五対十二じゃ話になんないのだ。」

―――ギィィィ

森の奥で、小さく断末魔の叫びが聞こえた。

「ふう・・・む!?」

 ザザザザザァァァ――――

「ま、まだいるのか〜!?た、退散なのだぁ!」

 アセンブラが、目的地の方向へむかって一目散に走り出した。

「きゃ〜」

 

「ち・・・こいつら・・・・・・」

 ラスナが、無数に閃く高速の銀閃を巨大な刀で弾く。目的地はもうそこである。

 オオオオォォォォ――――

 突然、高速で移動する一体に、地面から黒い生物が喰らいついた。ジュンの使い魔セイブルである。その口には、先程のトカゲを若干細くしたような姿をしたクリーチャーがその束縛から逃れようともがいている。

「ジュン・・・?」

「ラスナ、こっち!」

 見ると、ジュンとグリードが手を振っている。開けた場所である。何故かそちらには、トカゲ達が来ないようだ。なおも続く攻撃を避けながら、そちらへと向かう。

「アセは・・・?」

「まだみたいね・・・」

「もう来るさ、ほら」

 グリードが森の一点を振り向いた。

「あわわわわわ・・・・・・!」

 大声をあげながら、こちらへと走ってくる影が見えた。そのままの速度で森を抜ける。

 ズサササササァァ―――

 アセンブラのスライディングが、グリードに突き刺さる

「ヘブッ!」

「あぅ!グリード、大丈夫?」

「大丈夫よ。そいつなら・・・それより、あれみたいね。遺跡って・・・そうよね?」

 ジュンが後ろを振り向く。そして全員そちらを向いた。

「地図からするとあれのはず・・・だ」

「イメージとは、ずいぶん違うな」

 洞穴のように見える入り口。その周りは緑色の苔でその存在を隠すかのように覆われ、遺跡というには少しばかり地味な感じがする。

「むむぅ・・・ま、とにかく入るのだ!」

 アセンブラのかけ声で、全員は入り口らしき場所へ向かった。

 

 ―――時をさかのぼること。アセンブラ達四人が、クリーチャー達と交戦中だったころ

「はぁ〜・・・皆さんすごいですねぇ」

「うむ、普段人間相手にやってるとこういうのは新鮮だな」

 アーリィとイブ、さっきと似たような格好で一人一人の戦いを見ている。こそこそと追いかけながら、だが。

「皆さん何処へ向かっているんでしょうかぁ?」

「さぁな、だがあっちの方だろうな」

 アーリィが、アセンブラ達が向かっている方向に顔を向ける。

「ほぇほぇ・・・!?」

 イブが何かに気付いたように顔を引きつらせる。アーリィはそれに気付かない。

「しかしなぁ。なんて言うかグリードの戦い方は・・・ん〜、ひでぇ」

 誰かがアーリィの肩をつつく

「なんだよ・・・イブ」

 またつつく。

「なんか用なのか・・・?そろそろ行くぞ」

 アーリィが、そのつついた手を掴んで引っ張る。少し進んだ所で、何かに気付いたように動きを止めた。

「お前の手って・・・こう、ひんやりしててゴツゴツした鱗みたいなのがついてんだな」

 そう言ってまた歩き始めた。

「リーダぁ・・・あのぉ、その方私じゃないんですけどぉ・・・」

 だいぶ後ろからから聞こえてきたイブの声に、アーリィが振り向く。そこには、トカゲの姿をしたクリーチャー。

「あ・・・ひとまちが、いや、トカゲ間違いでした」

 掴んでいたトカゲの手を離し、ささと後ろへ回ってイブの手を掴み

「走るぞ!」

「ほぇ・・・?いたたたたたた!痛いですぅリーダぁぁ!」

 アーリィ達は森の中を走り抜けていった。

 

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