第三章 『戦いの夜明け』
「記憶の遺跡ねぇ」
小型の端末を見ながら、右眼に傷のある男―ジェイク―はつぶやいた。
「はい、ハンターズが管理している物では小規模ですが、なにしろ誰もたどり着いたことが無いということで・・・」
となりにいた秘書が言った。
「そこをどうするんだ?」
「ええ、簡単に言えば『記憶』への接近と調査ですね」
「・・・何で今ごろ。まぁいい、分かった」
「どうします?危険な仕事なので調査に行くハンターを指名しますか?」
ジェイクは小型端末をテーブルにおき、ニヤリと笑う。
「・・・いままでで最高の奴らを知ってる」
「・・・・・・承知いたしました」
『バトルフィールドセット完了、ゲート開放10秒前』
無機質な機械の声が、彼女の耳に届く。
彼女は口元に笑みを浮かべ、目の前の黒い壁を見つめた。
『・・・3、2、1、開放します』
ガコン――――
黒い壁が真ん中から素早く開く。彼女は、同時に片足で地面を蹴った。
真っ白な明かりに照らされたのは、無機質な灰色の廊下、端までは50m程ある。
ガッガッガッガッ――――
目の前で無数のターゲットが起き上がった。彼女は、それを物凄い速さですり抜ける。
チィィィン―――
突如、彼女の左手が一つ音を立てる。その手には、木の鞘が握られていた。
そして、彼女の後方のターゲットは全て二つに割れた。
更に、前へ地面を蹴る。今いるのは約10m地点。その距離を初めの踏み込みだけで走破したのだ。
それが5回、約一秒ごとに繰り返された時、彼女は既に廊下の端に行き着いていた。
『訓練プログラム、レベルS−66、終了。集計中、しばらくお待ちください』
「ふぃ〜」
彼女は、大きく息を吐いた。そして涼しい顔で、機械の声を待つ。
『集計終了、結果。タイム5秒24、ターゲット破壊数50、現在の最高記録です』
「やった」
彼女の前のゲートが開いた。扉の奥には一人の人影が立っている。
「いや、やっぱりアセさんは凄いですね。Sランク訓練プログラムをこのタイムで記録更新するなんて・・・というか、反撃プログラムが作動する暇も無かったですね」
金髪の眼鏡青年は、いつものように微笑みながら言った。
「えへへ・・・」
アセンブラは、頭をかいて照れる。先程の動きの主とは思えない可愛い仕草であった。
「あ、そうそう。お偉い方がお呼びみたいですよ。」
「ほぇ?」
少女の大きな目が更に大きく見開かれる。ちょっと首をかしげて
「おえらいかた?」
ガチャ―――
少女が大きな扉を開く。扉の先には大きな部屋。大きなソファがいくつかと、テーブルが真ん中に配置されている。応接室だろうか、そこには既に四人の人間が座っていた。
「お〜っす、速かったな」
「訓練してるって言ってたから、もうちょっとかかると思ってたけど」
「・・・」
そこには、グリード、ラスナ、ジュンのいつもの三人とどこかで見た顔が一つ。右目に傷のある男だ。
「あれ?おえらいさんは・・・?」
アセンブラが、きょろきょろと周りを見渡す。
「俺だ」
見覚えのある顔が小さく手を上げる。
「ほぇ・・・?うえぇっ!」
アセンブラが、何故か大袈裟に驚く。
「驚きすぎ・・・」
ジュンが小さく突っ込む。
「何で驚く?」
「だ、だってまるっきり・・・むぐぅ」
誰かがアセンブラの口をふさいだ。悪人だと言いたかったのか
「全員集まったんだ、さっさと話してくれ・・・」
口をふさいだのはラスナであった。いつもの無表情で淡々と見覚えのある顔、ジェイクに話し掛ける。
「あ、ああ・・・」
「もぐぅ、もぐぁ、むぐぐぅ」
「アセがなんか言ってるぞ」
グリードが心配げにつぶやく。
「あ、顔青くなってるわよ」
ジュンの言葉を聞いて、ラスナが急いで腕を放す。途端アセンブラは前にのめったが、なんとか体勢を立て直す。
「ぷはぁ・・・死にそうだった」
苦しそうに肩で息をするアセンブラ。
「・・・・・・」
ラスナは心なしか反省しているように見えた。そのまま、ソファへと歩いていく。
「ゴホン・・・」
すっかり無視されたと思ったか、奥のほうでジェイクが一つ咳払いをする。
「おお、そうそう忘れるところだったのだ」
全員がソファへと納まった後、ジェイクが唇を割った。
「内容はいたってシンプル、このハンターズが管理している。『記憶』の遺跡に行ってもらいたい。」
「『記憶』?」
ジュンが分からないといったふうに問い返す。
「古代の禁断技術のことなのだ。いろんな物があるけど、武器とかが一般的かな」
アセンブラが、ジュンの方を向いて説明する。出番を取られたかジェイクは面白くなさそうにしながらも、うなづいた。
「ふ〜ん、詳しいわね」
「えへへ、本で読んだのだ」
そう言って照れる。
「まぁ一般的にはそうなんだが、この遺跡にあるものは『不明』ということだ」
「・・・不明?ハンターズが管理してるものだろう?」
今度はラスナが質問する。
「いや、そうなんだが、資料によると『記憶』が保管されている場所まで行った者がいないんだ。構造からは確かに古代の建造物だということで『記憶』の遺跡とされている」
「それを、四人で、か?」
グリードが、確認するように聞いた。不安の気持ちは微塵も感じられない。
「ああ、不満でも・・・?」
「いや、かえって多すぎかもね」
「ふふふ・・・やはり最高の奴らだ・・・・・・」
ジェイクが小さな声でつぶやいた。
「む?何か言った?」
アセンブラがその声を聞いたのか、聞いてくる。
「いや、何も・・・そうだ、そこまでの地図を渡さないとな・・・・・・ええと」
ジェイクが奥の机へと向かっていった、よく見ると机の上はジャングル状態になっている。そこを、がさごそと探している。
「偉い人って皆こんななのかな・・・」
アセンブラがつぶやく
「へ、へぃっくし・・・!」
部屋一杯に、くしゃみの音が響く。
「あら?風邪ですか旦那様?」
「・・・そうかも」
男が鼻をすすりながら答える。
「そんな訳無いですね、何とかは風邪ひかないって言いますし」
「そうなのか?・・・じゃぁ誰かが噂してんだろうなぁ」
「それより、今日中にそこの書類全部やってくださいね」
男の前には、高くそびえ立つエベレスト級の紙の束が詰まれている。
「いや・・・無理っす」
「あったあった、このディスクだ。」
ジェイクが、小さな板を持ってアセンブラ達の所まで来た。
「ふむ・・・」
ラスナが受け取り、しげしげと眺める。
「確認してみてくれ」
「ああ」
ラスナは端末を取り出して、ディスクを差し込んだ。
「ほぇ?」
アセンブラ他四人が端末の画面を覗き込む。
「むむむ、第一危険地帯の中にあるのか。しかもこの辺りって・・・」
そう言って、アセンブラが画面に表示された位置を知らせる赤い点の周りを、ぐるりと囲むように円を描いた。中くらいの円である。
「ああ・・・第一危険地帯の魔界、トカゲの巣だ」
「何か問題でも?」
ジェイクの問いにラスナは首を振って
「・・・・・・いや、ただ面倒臭いだけだ」
その時、窓から黒い影が舞い上がるのに、気付いた者はいなかった。
「リゼ、今帰ったぜ・・・」
獣人の男と、痩せた男が並んで帰ってきた。リゼが振り返る
「見つかったか?」
「ああ、情報屋を見つけた。だが・・・な」
「うむ」
獣人と痩せ男が顔を見合わせた。
「どうした?」
「それが・・・ある場所がちぃと厄介なんだ・・・」
「どこだ?」
「・・・地図あるか?」
「ああ」
リゼと、二人の男はテントの中に入り、中にあるテーブルの上に地図を広げる。
「ここだ」
座標を確かめて、獣人が地図の一点を指さす。
「トカゲの巣か・・・厄介だな」
「その心配ならしなくていいぜ」
テントの入り口が開いて、背中に翼を持った男が入ってくる。
「・・・?どういうことだ?」
リゼが問い返す。
「どうやら、ハンターが四人ほど調査へ行くらしいぜ」
「何?私達に気付いたのか?」
「いや、どうやらそうじゃないらしい。」
「いいじゃねぇか、つけようぜ。そいつらを、よ」
獣人が割り込む。
「私も、賛成だな」
痩せ男が獣人に賛同した。
「・・・分かった。そうしよう」
―――少し戻って
「ええ!?グリードさんが、ですかぁ?」
イブが素っ頓狂な声をあげた。
「ああ、さっき戦闘服を買っているところを見た」
C・G本部、アーリィとイブが話し合っている。
「でもでも、それだけで決め付けるのはぁ・・・それに、いい人ですよぉ」
イブが、アーリィを下から見上げる。
「まぁ、真実は分からんからな、後をつけてみる」
「私もいくですぅ。グリードさんの無実を晴らすのですぅ」
イブが、ビュッと手を上げた。
「・・・やっぱり、そうくるか。ダメって言ってもついて来るんだろうなぁ。分かった・・・いいぜ」
「やったぁ、頑張りますぅ」
「さて、と。じゃぁ、明日の準備に行きますか」
グリードが、伸びをする。さっきまでいた部屋が堅苦しい雰囲気だったせいだろう。
「うむうむ・・・んじゃ、アセは武器の整備をしに行くのだ」
「俺も行こう。」
と、ラスナ。
「ん〜、私は武器の整備の必要ないからなぁ。ちょっとぶらついとくわ」
ジュン。
「オレは、検診かな」
グリード。
「じゃ、明日ね」
「うむ」
「じゃぁな」
「・・・」
四人は、それぞれの方向へと歩き出した。