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ウィィィィン―――
機械的な音と共に、端末からディスクが顔を出す。
「よし、と・・・」
アセンブラがディスクに手を伸ばす―――と!
「・・・!?」
ガシャァァァァン――――
後ろからの殺気に、アセンブラが上へ跳躍し、そのまま弧を描いて着地した。手にはしっかりとディスクが握られている。残念ながら本体の端末は、壊れてしまったようだ。彼女の目の前にいる何者かが、ゆっくりとこちらを振り向いた。男、丁度グリードやラスナ達と同じような年で、黒みがかった赤い眼をしていた。
「入ってきたのが誰かと思って来てみれば、女のガキじゃねぇか・・・」
「む、誰だ?」
「まぁ、いいか。俺の一撃を避けたことは誉めてやるよ」
「だから、あんたは誰なのだ?」
「いくぜ!」
ダッ―――
「もう・・・」
アセンブラが、ひょいと避けた。男の拳が壁に突き刺さる。
ドゴォ―――
パラパラ―――
壁に大きくひびが入る。
「おお、手、痛くないのか?」
アセンブラがひびを見つめて言う
「ったりめぇだろ?ドールだぜ!?」
ヒュッ―――
振り向きざまに彼女に殴りかかる
「おっと、危ないなぁ」
ヒョィ―――
「ちっ、ちょこまかとウザってぇんだよ!」
スウ――
男が手をだらりと下げた。男の眼の黒みが薄れ真っ赤へと染まっていった。同時に
ピキ―――ピキ―――ピキ
男の右腕、肩から先に変化が起こった。腕全体が異様に平べったくなり、薄く広く広がっていった。まるで、そうまるで、鋭利な刃のように。
男はそれを、自慢気に振り上げて見せた。
「へへ、驚いたか?」
「ほぇ、かっこいいな」
その返答に、男が舌打ちする。ゆっくりと構えた。
「今度は、避けさせねぇよ・・・この刃がな!!」
「おらぁっ!!」
「おっと・・・」
横なぎに振られた刃を、アセンブラがしゃがんで避ける。そして、しゃがんだと同時、男に向かって足払いを放った。
男が軽く跳んでかわす。その横っ腹を
「えぃ!」
ドゴッ―――
「ちっ!」
アセンブラが、足払いの回転を利用し、手に持った鞘で男の腹をぶん殴ったのだ。男は吹っ飛ぶが、空中で体勢を整えて着地する。
「むむ、効いてないのか・・・結構力入れたんだけどな〜」
「へへ、そんな棒切れで殴ったくらいじゃ、俺の肌に痣一つつけられねぇよ!」
そう叫んだと同時、彼が地を蹴り、一気に距離をつめた。そして、少女めがけ攻撃を仕掛けた。刃状の右腕が、鋭い針状に変化し、アセンブラの顔を狙う。
ギィィッ――――
金属音と共に針の軌道が逸れた、そのまま壁に突き刺さる。男は何が起こったか分からないような顔をしている。少女が持っているのはただの黒く長い棒、左手で握ったままだらりと下げて、男の目の前でこちらを見上げている。彼はそれを見た。彼女の大きな瞳、光のあたり加減によっては真っ黒に見えてしまうような深い藍色、この攻撃にすら、驚いたような表情も見せず、ましてや恐怖など微塵も見せていない。彼が初めて見る瞳、自分に恐怖しない瞳。
腹が立った。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
右手に続き、左手が針状に変わる。壁に突き刺さった右手を抜く反動を加えて、左手を突き出す。今度は少女の瞳を狙って。
「無駄なのだ」
ギィィィッ――――
また弾かれた。今度は見えた。少女の持っている物は棒じゃない。ただそれだけが分かった。今度はこれだ。全身に力を入れた。
「オォォォォォォォ!!」
扉が開く音がした。三人がそちらを振り向く
「あら?イブちゃんじゃない?ん、なんであんたがいるのよ?」
ジュンが、その人影に気付く。人影が言葉を発した。
「姉さん・・・僕は、研究者ですからね。こういうコトは大好物です」
ニコニコしながら、そう言ったのは、眼鏡をかけた金髪の男、シューだ。こう並ぶと姉弟そっくりである。
「あの、あのあの・・・」
イブは、いつにもましておどおどとしている。
「まぁ・・・いっか、イブちゃん?アイツは?」
「えとえと、アイツ?」
「そうそう、あのピアス男」
「あ、リーダーですか?あの、えと、今日はいませんですぅ」
ジュンは、最近アーリィのことをピアス男と呼んでいる。外見そのままなのだが。
「あらそう、珍しいわね。ま、いいわ。で、どうしたの?こんなとこに」
「あの、それは話すと長くなるんですけどぉ、えと、えとえと、そです。ここに侵入した遺跡ハンターの方たちを捕まえにきましたのですぅ」
ちっとも長くない。
「ああ、あいつ等を、ね・・・いいわよそこらへんで伸びてるから」
ジュンが、奥のほうを指さす。
「あの、あの、ありがとうです」
ぺこりとお辞儀してから、そちらへパタパタと走っていく。
「うふふ、可愛い〜」
「それにしても。アセ遅ぇなぁ・・・」
グリードがぼやく。
「・・・様子を見に行くか」
「そうね」「そうしましょう」
姉弟が同時に言う。ジュンはあまり面白く無さそうだ。シューはやはりニコニコしている。
パタパタパタ―――
と、向こうからイブがかけてきた。
「あのあの・・・」
「ん?どした?」
グリードがたずねる。
「あの、そのぉ・・・あの人たち運んでくれませんかぁ?私には重くて・・・」
少し涙目だ。
「ありゃ・・・」
「ん〜、じゃぁオレが手伝うか・・・」
「あたしもてつだってあげる。あんただけじゃ不安だし・・・」
「あ〜、頼むわ。オレでも三人抱えたら、もしものときにうごけねぇし」
「三人ですかぁ・・・?」
イブが不思議そうな声を出す。
「どうしたの?」
「いえ、えっとぉ、二人しかいませんでしたよぉ?」
「え?」
グリードが頭をかく。
「おかしいな・・・」
「・・・まぁ、それはいい。どこかに隠れているのだろう。もし見つけたら俺が運んでくる」
「じゃぁ、よろしく。先行くぜ」
「・・・ああ」
黒く大きな扉、ここにアセンブラが入っていったのを横目で見ていた。ラスナは開けようとそれに手をあてた。突然―――
「!?」
ビリビリ―――ビリビリビリ―――
ォォォォォォォォォォォ―――
ドォォォォォォン―――
轟音と共に、壁の一部がはじけ飛んだ。瓦礫と共に、小さな影が飛び出す。そのまま、地面を数メートル転がって、止まった。いや、ただ止まっただけではない。黒い鞘を左手で握り、それを腰に密着させ、鞘の先に開いた右手を軽く当てて、態勢を低く構える。少女独特の構え。
「何だ・・・?いまの・・・?法術か?」
シュウゥゥゥゥゥゥ―――
白煙立ち昇る壁の向こう、微かに見える人の影、いや、果たしてそれは人であろうか?床にも達する長大で鋭利な腕、否、武器。人が持つ眼にはありえない血よりも深い紅の瞳。これがドール―――
「それが、ここの記憶ですか・・・?」
シューが、つぶやく。それはアセンブラには聴こえたようだ。その応えを返す。
「違うよ・・・ここに記憶はないのだ」
「そいつは・・・ドールか」
ラスナが問うた。
「うん・・・大丈夫だよ。アセ一人で十分だから」
「ああ・・・分かった」
ラスナが腕を組んだ。
煙の中の人影が揺らぐ。
「あぁ!」
「うおっと!!」
突然上がった少女の声に、大の男を二人抱えていたグリードが前へつんのめりそうになる。
「ど、どうしたの?」
ジュンの問いにイブがもじもじと答える。
「あの、あのぉ・・・私、あそこに槍を置いてきちゃったですぅ・・・」
「あら・・・」
「す、すぐとってきますぅ!」
そう言って、パタパタと走っていった。
「うふふ、うっかりさんね」
「おおおぉ!!!」
ドゴォォォォ――――
男の一撃が一瞬前まで少女がいた場所をえぐる。
「ほぃっ」
ガギィィィィ――――
「ちぃ!」
アセンブラの一閃を男が素手で受け止めた。受け止めた場所から血のように火花が飛んだ。
「むむ、硬いな」
「くそぉ!!」
ヒュッ―――
針状の腕が、少女の顔を横切る。そして、右左交互に高速のラッシュが始まる。
ヒュッヒュッヒュッ――――
「当たらないのだ」
ガッ―――
アセンブラが攻撃をその黒鞘で受け止める。そして、その一瞬の隙を突いて、男の懐に入り込み強烈なボディブローを放つ。
ドゴォッ――――
「ウォォォォォ・・・」
「あぅ!?」
不意に男の身体から、強力な力の放出が起こる。少女の身体が飛ばされる。少女の手から黒い鞘が飛び出した。
「・・・!?アセ!!」「アセさん!?」
ドサッ―――――
少女の身体が、黒い床の上をごろごろと転がる。
カッカランカランカラン――――
高い音を立てて少女の刀が少し遠くに転がった。
「ちっ!!」
ラスナが素早く刀のほうに走る。刹那―――
「あっ!アセさんだいじょうぶですかぁ!!?」
アセンブラとは別の少女の声、男がそちらを見た。見て、卑劣な笑みを浮かべる。そして、ラスナが刀をつかむより早く、アセンブラが前へと走り出す。
丸腰―――
男がイブの前に立ちはだかる。右手を大きく振り上げた。刃状の腕、少女は「あ」と小さく鳴いたまま固まってしまう。
「シネ・・・」
ズシャァァァァ――――
「あ・・・・・・」
小さな影が吹っ飛ぶ。―――イブではない。その少女は、固まったまま、呆然と男のほうを見ていた。小さな影が、壁に叩きつけられる。そして、ずるずると地面に落ちた。
「アセ・・・!!」
ラスナが走り出す。その手には少女の刀。
ダァァァン―――
衝撃音、男の身体が弾かれる。シューが男に向かって発砲したのだ。
「・・・?」
「僕が、相手しますよ・・・」
「い・・・」
イブがアセンブラのほうをゆっくりと見た。少女はぐったりとして、動かない。
「イヤァァァァァァァァ・・・・・・!!!」
ピキッ―――
悲鳴、何かがはじける音―――
「・・・?アイツ・・・本気で泣きやがったな・・・」
病室、丁度ガルトを運んできた所だった。
「ああ・・・?どうかした?」
ガルトの病人とは思えない声にムカッとした
「うるせぇ!ただの法力の使いすぎだったクセによ!」
「アセ・・・?」
ラスナが外傷を探る。見当たらない。血すら見えない。
「・・・これは?」
良く見ると少女は右手をしっかりと握っていた。そっと開いてみる。
紅い法珠、少女の額につけてあったものだ、それが粉々になってそれぞれが僅かな照明に当たって紅く煌めいていた。
「・・・これで、攻撃を防いだのか・・・」
おそらく背中を打った衝撃で気絶したのだろう。ほぅっと小さく安堵のため息をつく。
「流石だな・・・しかし・・・」
アセンブラを抱えて、ゆっくりと立ち上がる。後ろを振り向いた。目の前に広がるのは――
「恐ろしい力だな、あの娘も・・・」
氷原、と言うべきか。凍った空気が霧になって、煙のように渦巻いている。小さいものから天井まで届くほどのものまで、様々な大きさの柱が乱立する氷のフィールド。天井にもつららが槍のように生えている。少女はその真ん中で、ぺたりと座り込んでいた。
「・・・シュー、いるか?」
少しして、声が返ってきた。
「あ、ラスナさん、無事だったんですね。アセさんは?」
「・・・ああ、大丈夫だ、奴は?」
「あははは、そこで氷漬けになってますよ」
見ると、氷柱の一つに腕を振り上げた格好のあの男が入っていた。
「・・・・・・そうか・・・ん?」
グラグラグラグラ―――
大きなゆれ、パラパラと小さな破片が落ちだす。原因はおそらく、この法術の所為であろう。
「崩れるな・・・」
「ちょっと、どうなってんのよ!?」
ジュンとグリードが顔を出す。
「・・・急いででるぞ。もうすぐ崩れる」
そう言ってアセンブラを背負う。シューも、イブを担ぎ上げた。
「え!?何!?ちょっとアセちゃんどうなったのよ!?それに、これは・・・!?」
「・・・問題はない。説明は後だ」
「んもう!」
「なんか、訳わかんねぇな」
グリードがぼやく。男二人を担いで走ってきたようだが、疲れた様子はない。走りながら彼とすれ違いざま、ラスナが呟いた。
「・・・俺にも分からん」
「・・・くっ」
痛む右腕を押さえ、物陰に隠れていたリゼが、突然の揺れに舌打ちする。小さな瓦礫の雨が降り始める。
「俺もここまでか・・・」
どこからか声がした。
「クククク・・・」
スゥ―――
白い男が闇の中から現れる。口元には嫌な笑み。白い髪の毛から覗く真っ赤な瞳。
「貴様・・・何者・・・?人間じゃないな・・・」
リゼが衰弱しきった身体で、何とか立ち上がろうとする。
「ほぅ、分かるのか?面白い」
「俺に・・・何の用だ・・・?」
足を開き、膝に手をついて中腰の形で止まる。それが限界なのだろう。しかし、彼は白い男の返答次第では、戦う気だ。
白い男の、唇が動いた。
「何、一人、力を見たい男がいるのでね。その男と戦ってもらいたいのだよ。もちろんそのための力を貸そう」
「・・・そんなもの、自分でやればいいだろう・・・」
「私だと、少々不都合があってね。相手はお前も知っている男だ」
「・・・誰だ?」
そして、白い男は笑う。笑みを含んだ口元が言葉を紡いだ。
「・・・先程お前を倒した男だよ」
「はぁ〜、何とか出られたな。」
ドサッ―――
グリードが担いでいた二人を落とす。
向こうでは、ラスナがジュンに事の成り行きを手短に話している。その向こうでは、放心状態のイブをシューがゆっくりとおろしている。
ガラガラガラ―――
後ろで遺跡が崩れる音。もうすぐ全て埋まってしまうだろう。
ラスナがぺたりと座り込んでいる少女の前へ行き、肩膝をついて顔を覗き込む。
「・・・大丈夫か?」
「・・・あ・・・はいぃ」
元気がない声、ラスナが少女の頭を軽く撫でる。相変わらず無表情だが、優しげな仕草。
「・・・あぅ・・・えぐっ」
突然少女が泣き出す。それをラスナは不思議そうな眼で見た。
「・・・何故泣く?」
「・・・だ、だって・・・わた、わたしのせいで・・・アセさんが・・・」
涙声で、所々つかえながら言った。
「・・・大丈夫だ。アセは何ともない。ただ背中を打って気絶しただけだ」
「・・・え・・・あ、あの・・・で、でも・・・き、斬られたんじゃ・・・」
ラスナがすっと手を差し出す。その手には紅いきらきらした破片が乗っていた。
「こ・・・これは・・・法珠・・・?」
ラスナがうなづく。
「・・・これで防御したようだ。流石というべきだな」
「・・・」
「・・・だから心配するな。あいつももうすぐ目を覚ます。そんな顔をしていたらアセが心配するぞ」
「は、はいぃ」
そしてラスナはもう一度優しく頭を撫でる。そしてゆっくり立ち上がった。
「結構いいとこあるのね」
ジュンが冷やかす。ラスナが眼だけでそちらを見る。
「・・・以外か?」
「まぁね。もっと冷血かと思ってた」
「・・・」
「あ、あの!」
少女が立ち上がる。どうにか、元に戻ったようだ。ラスナとジュンが振り向く。
「・・・?」
「えと、あのぉ、そのぉ、アセさんの法珠・・・貸してもらえませんかぁ?」
イブが、言葉を続ける。
「えとえと、わたし手芸とか、小物とか作ったりするの好きなんですぅ。で、そのアセさんの割れちゃったし・・・」
「あら、良いじゃない」
ジュンが意図を察してか、言葉をさえぎる。
「・・・貸しておこう」
ラスナが、破片を取り出し、ポケットから取り出した小ビンの中に入れた。そして、少女に渡す。
「ありがとうございますぅ」
「まぁ、ここにいても仕方ないし街まで戻るわよ」
「は、はいぃ!」
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