第四章 『鬱々たる古代の中で』
遺跡の中は外見とは違い、神秘に満ちていた。
太陽の光とは違う、それでいて冷たい灯火とは違った、不思議な光が、天井から漏れている。
天井には、不思議な紋様が描かれている、どうやらその奥に光源があるようだ。
「ほぇ〜、綺麗だな」
先頭を歩いているアセンブラが、上を見上げポツリとつぶやく。
「しかし、妙なもんだな。普通カビの臭いとかするんじゃねぇの?」
隊列の一番後ろにいたグリードが、疑問を漏らす。確かに地下だと言うのに空気は外と変わらない。むしろ、クリーチャー達の瘴気が無いだけ、快適でさえある。
「まだ、電源が生きてるのかな。そしたら、気をつけたほうがいいかも」
「――――どうして?」
アセンブラの後ろでラスナと並んで歩いていたジュンが、アセンブラに問い掛ける。彼女はジュンのほうを振り向きながら口を開いた
「多分、セキュリティが働いていると思うのだ。簡単なトラップから、その時の最新まで、一杯あると思うぞ」
「――――」
ラスナがアセンブラのほうをちらりと伺うが、彼女も他の誰も気付かない。
「セキュリティねぇ――――」
「だあぁぁぁぁぁ―――――!!」
ガササ――――
イブを半ば引きずりながら、ようやく森の開けた場所まで出てきたのは、アセンブラ達四人が、丁度遺跡へと入っていった時だった。疲れたせいかそのまま力なく倒れる。
「ゼェ―――ここまで―――逃げれば――トカゲは――――ゼェ、こねえだろ―――」
トカゲ達の習性を知っているのか、安堵の声を洩らしながら呼吸を整えようとしている。
「りーだぁ―――うでが、うでがぁ」
アーリィと同じように地面に突っ伏しているイブがうめく。
「どうしたぁ―――?イブ―――腕が、どうかしたのか?」
「あうう――――のびたかもしれないですぅ」
「アホ、伸びるわけ――――ん?」
恐ろしい回復力で普通の状態に戻ったアーリィが、何かに気付いた。
「誰か来る―――あそこに隠れるぞ」
「あうぅ―――もう引っ張らないで下さいぃ」
アーリィがまたイブの手を引っ張りつつ、遺跡の入り口の裏側へと隠れる。
現れたのは、あの四人組。銀髪をかきあげながら出てきたのはリゼ。トカゲの残骸を右の手で掴みあげているのは獣人。痩せ男は死を導く死神よろしく、ゆらりと柄の短い大鎌を両手で握り締めて、悪魔男は呆れ顔で、それぞれ歩いてくる。
リゼが、入り口の方を見上げる。そして、痩せ男を見る。痩せ男が、鎌を筒状に戻して、懐から地図を取り出す。
四人が歩き出し、入り口へ入っていく。しかし、悪魔男が入り口の手前で止まった。
彼は、リゼたち三人が遺跡のなかへと消えていくのを見届けた。
――――少しの間、突然彼は唇を割った。
「出てこいよ。そこにいんだろ?」
「あらら、ばれてますねぇ。りーだぁ」
「――――チッ」
アーリィが、観念して出ていく。草を踏む音が、クリーチャー達が静かに見つめる森の中に響いた。
「あ、そっちか」
悪魔男が、後ろを振り向く。どうやら勘違いしていたようだ。アーリィが少し眉をひそめたが、構わず悪魔男が続ける。
「あんた、何者?」
「てめえは、見たことねぇな―――」
そっちから名乗れと言わんばかりにアーリィが話をそらす。
「ん〜、そりゃ参ったな。んじゃぁ俺から名乗るか」
悪魔男は、親指で自分を指差し気障なポーズを決める。
「ガルト・レア・セレイド!最近噂の何でも屋、雷神ガルトとは俺の事。以後よろしく!」
「――――」
アーリィと、イブが顔を見合わせ。
「知ってるか?」
「い〜え、知らないですぅ」
イブが首を振りながら答える。それを聞いてガルトはがっくりとする。
「―――くそぉ、まだ隔離都市じゃ無名かぁ。そういうあんた達は何者よ?」
「ふん―――俺の名はアーリィ。T・C・Gのリーダーだ。こっちは――――」
「えへ、イブ・ヴァン・ディールですぅ」
イブがぺこりと頭を下げる。アーリィがその下げた頭をはたいた。
「あうう―――いたいですぅ」
イブが頭を押さえながら涙目で講義した
「アホ、敵に頭下げんな」
「ま、C・Gがなんでこんなとこにいるのは置いといて――――」
ガルトは、服の中からおもむろに筒を取り出し、軽く一振りする。筒は上下に伸び1m50cmほどの長さで止まった。そしてその両端から鋭い刃が跳ね上がった。その刃の長さ約30cm、全体あわせて2m10cmほどの、両剣の姿をしたそれを、高速で旋回させてから構える。
「戦ろうぜ?」
「リーダー、どうしますぅ?」
イブが小声で問い掛ける。話し方は変わらないが、少しだけ緊張を含んだような面持ちだ。
「対空戦通りに―――」
アーリィが小声で返す。と同時に、腰の両方に取り付けてあった二本の剣を静かに抜いて構える。長さ120cmほどの少々短めの剣は、二刀を操る彼専用の武器だ。彼の眼は既に戦いを意識していた。
「はぁい」
イブも、筒を展開し長刀の姿にして構える。
「アホ―――了解って言え」
鼻で笑いながら、身体を前に傾け、体勢を低くしていく
「―――はぁい」
アーリィが地を蹴る。同時に、ガルトも地を蹴った。
「むむむ―――」
遺跡らしかったのは、入り口だけで、中を進んでみれば進歩しきった技術の集大成であった。
扉がずらりと並んだ廊下の一番奥でアセンブラが唸っている。これが最後の扉だ。
「あら、ここも開かないんじゃ。話にならないわね」
ジュンが、「ん〜」と唸りながら押してみたり引いてみたり、または横に引いてみたりと試行錯誤しているアセンブラを見つめている。そしてその開けてみようとしたほとんど全部は、取っ手の部分が彼女によって破壊されている。ただ力を入れすぎただけだが。
「ぶち破るか?」
グリードが提案する。その言葉にラスナが問い掛ける。
「誰がやるんだ―――?」
「う」
その言葉に、グリードは言葉を詰まらせた。
「う〜ん、きっと開くはずなんだがなぁ」
アセンブラが扉の隅々まで調べる。上の方までぺたぺたと触りそして、下のほうまで調べ終えた後。何かに気付いたように少し動きを止めた、そして立ち上がる。
「―――おし」
「開けられるの?」
ジュンが聞く。アセンブラが答えようとしながら、後ろに手を伸ばす。
「ううむ、賭けだね――――グリード?」
「ん?ってアセ!?何で俺の服をがっしりと――――!?」
「ちょっと痛いかも―――よっと」
アセンブラが、頭一つ以上大きいグリードを軽々と持ち上げる。
「どわぁ!」
「少しの辛抱だ―――我慢しろ」
ラスナがポツリとつぶやく。
「そうよ、男なんだから。」
ジュンもそれに賛同。
「男とかの問題じゃねぇ!」
「むむむ、大丈夫なのだ。このぐらいの硬さなら、発泡スチロール同然なのだ。多分」
「ああ!?多分かよ!」
「と、とにかく。名づけてグリード大砲!どっか〜〜ん!!」
ドゴォッ―――!
爆音の中にゴキッという妙な音がしたが、それは置いといて。扉の一部は砕け落ちたが、中にもっと硬いのが入っていたらしく、貫通はしなかった。しかし―――
ガタン―――
「うお〜!下が開いた!こういう仕掛けなのか?」
急に開いた大きな暗い穴に、避ける間もなく四人が落ちていく。
「いや―――罠だろう」
ラスナが冷静に落ちていく。
「う〜んついてないわねぇ―――」
ジュンも然り。
「俺は当たり損かよ―――」
この男は、どうだろう。
――――ガタン
落とし穴の口が閉じた後、三つの影が姿をあらわした。
「全く、騒がしい連中だな」
痩せた男が、やれやれといった感じで言った。リゼが何かを思い出すように顎に手を当てている。獣男がそれに気付いた。
「どうかしたか?リゼ」
呼びかけられたことに、はっとして獣人のほうを振り向く。
「いや、少しな。それより、あれ開けられるか?」
リゼが扉に顎を向ける。獣人は扉を見て、少し考える
「やってみるぜ」
ガキィィィィ―――
鋭い刃同士が交差する。アーリィがあいている右の剣を突き出す。
ヒュッ――――
ガルトはそれを後ろに飛んで避けた。そのまま羽ばたいて距離を大きく離す。
「接近戦は不利か!なら――――!」
背中の翼を動かし飛翔しながら、頭の上で手を交差させる。その動作と同時、交差させた場所に法力が集まる。
「雷撃!」
バシィ――――!
収束された電気の法力が地面に直撃する。アーリィは横へ跳躍してその一撃を交わす。同時に彼は叫ぶ。
「炎よ!喰らいつけ!」
アーリィが、剣を握ったままの右手をガルトとへ突き出す。
ゴオォォ――――
大気を焼きながら、炎の一閃がガルトへと伸びた。
「雷の壁!」
迸る雷の壁が炎を受け止める。ぶつかった法力が鮮やかな火花となって降り注いだ。
「流石ですぅ。リーダー―――」
感嘆のため息を洩らしながら、イブは長刀の柄をギュっと握り締めその火花を見つめていた。火花の中でガルトがつぶやく。
「侵食」
ジジジジジジ――――
ガルトがつぶやいたと同時、電撃が炎をつたってアーリィへと迫る。アーリィが舌打ちし、炎を放つのをやめ、後ろへ跳躍しながら叫ぶ。
「なめんなぁ!―――風よ!切り裂け!」
「―――!」
アーリィから放たれた二つの刃は、空間を切り裂きながらガルトへ走る。ガルトは間一髪でそれをかわす。
「へっ、驚いたかい。俺が使えるのは一つだけじゃねぇんだぜ」
法術には属性というものがあり、普通一人一つの属性しか持つことが出来ない。しかし、彼は二つ以上の属性を操ることができる。
二人は向かい合い、再び対峙する。数秒の間――――
死を紡ぎだす森の吐息が彼らを囲む森の草を掻き鳴らし、彼らの頬をなで髪をかきあげていく。
どこかで、巨獣の絶叫が聞こえた。他のハンターが仕留めたのだろうか。
戦いを見守っていたイブが、何かを確信したように目を瞑った。
時間が止まったような数秒、先に動いたのは―――
「迅雷槍!」
ガルトだった。高速の光の槍が、アーリィへ伸びる、彼は横へ跳躍して、それをかわした。そして、ガルトが彼へ向かって走る。
「もらったぁ!」
ガルトが彼まで1mの距離に来たとき、彼の顔が見えた。彼は口元を歪めて笑っていた。そして、右手を振り上げながら叫ぶ。
「水よ!壁となれ!!」
法力によって収束された大気中の水分が、ガルトの目前に立ちはだかった。彼は避ける暇もなくそれに突っ込んだ。
「しまっ――――!」
バシャァァ――――
体が濡れることは雷使いにとっては致命的だ。純度の低い水は電気を通す。この状態で法術を使えば自分にも被害を受ける。
「ざまぁねえな」
アーリィがにいと笑った。
「くそぉ―――」
ガルドが、背中の翼を羽ばたかせ空中へと飛び上がった。しかし、少し上昇した所で翼の動きが鈍くなり、彼に鋭い痛みが走った。そして、飛翔力を失った身体は重力にしたがって地面に叩きつけられる。
「逃げられないですよぉ、氷縛結界ですぅ」
仰向けに倒れたガルトを、イブがしゃがみこんで覗き込んだ。彼の翼は、真っ白な霜に包まれていた。
「迂闊だったな、見えなかったのか?」
アーリィが、彼を見下げながら言った。ガルトは、へっと息を洩らした。
「油断しすぎたぜ、まさか―――人間がこれほど使いこなせるなんて―――な。ほんと、驚きだ」
ガルトは、起き上がろうと試みるが、身体が言うことを聞かなかった。ははっと自嘲気味に笑う。それを見て、アーリィが彼に駆け寄った。
「お、おい。うごけねぇのか!?おい!」
「ど、どうしたんですかぁ!?」
アーリィが彼の身体をうつ伏せにして、脈を計る。弱弱しい、体温も低くなっている。今の攻撃のせいなのだろうか、その時ガルトが呟いた。
「―――持病だよ、気にすんな。ちょっと派手に動きすぎただけだ―――」
アーリィはゆっくりと立ち上がる。
「仕方が無い、リゼに用があったんだが、おいイブ」
ガルトに手を伸ばし、背中に背負った。悪魔男の身体は、意外と軽かった。これなら――――
「はい?帰るんですかぁ?」
イブが長刀をしまいながら、アーリィに駆け寄る。その問いにアーリィは首を横に振る。
「いや、お前はリゼ達の捕獲だ」
「うえええぇ!」
「いいな、アセ達を見つけたら合流しろ。いいか?無茶すんなよ」
そう言って、アーリィは左手でガルトを背負い、右手で剣を抜いて森の中へと消えていった。
「ううう、初めから無茶ですぅ」
うなだれながら、遺跡の中へとぼとぼと歩いていく。
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