司会「皆様本日はご多忙中、ご出席ありがとうございました。」
司会「本日はもう歴史の中に取り残されて来つつある、昭和の
センセーショナルな出来事。あの三島義挙の主人公三島
由紀夫氏の、死を賭けた行動について、二一世紀を控え
た現代の日本人との関わりについて、推し深めてみよう
と思いまして、皆様にご出席をお願い致しました。
早速ですが吉原さん、三島氏について一言お願いします。
吉原「三島氏は当時本業の作家として、大変な地位と名誉に恵
まれて、当時のアメリカの有名な雑誌『エスカイヤ』で
も、”世界の偉人一○○名“の特集に日本人でたった一
人選ばれたそうです。」
関谷「そう云えば昭和四五年ですか十一月市ヶ谷の自衛隊で決
起されたのですね」
大林「何故腹を切ったかですね。今までにも多くの文化人や政
治家とやらが、その行動、死に方に賛否両論ですね。」
吉原「もう随分時代が経過しているのに、未だに何故死んだの
か分からないと云う意見が誠に多いのは残念ですな。」
司会「この様な席を設けさせて頂いたのも、実はそこのとこに
焦点が有る訳です。」
大林「三島先生の行動は随分計画的だったそうですね。」
吉原「三島さんの沢山の御執筆の中で『行動学入門』と云う本
があるね。私なんかは以前若かった時分は随分陳腐な本
だと思って途中で投げ出してしまったんです。」
司会「で、どうなさいました。」
吉原「何年かしまして読み返しましたんです。しかし三島さん
が恐らく、一番云いたかった事なんでしょう。
人間の理想的な生き方、所謂そこには『美学』が述べて
有りました。」
関谷「ほ〜う。それは面白いですね。」
吉原「文学を『生業』とする彼は、言動と行動を一致させる所
に真の人間としての生き方の美学を見い出していたので
すね。」
司会「最近、世の中の政治家を初めとして、学者、医者、教師、
宗教家。実に現行不一致の人間が多い。
嘆かわしいですな。」
吉原「その言動と行動とを一致させる処につまり、古代からの
日本精神に存在する『キヨキ、アカキ、ココロ』ですね。
言動に偽り無しという、芸術家・文学者としての真心、
良心なんでしょう。
例えば文中にも、行動の実現化の非常に至難な事が述べ
られています。弓矢に例えて、一度弦を離れた矢は目的
を果たすまで、後戻りはしない、何も考えず、と云うよ
りむしろ結果は思案の外で、只全生命を一つの行動に賭
ける。そこに純粋になれる処が凄いですね。」
お歌に
『ますらおの
た挟む太刀の鞘鳴りに
幾歳耐えて 今日の初霜』
大人が目的達成の為に只ひたすら志を継続すると云うこ
とは、実にお辛い事ですよ。
大林「そう云えば三島先生の赤穂四十七士の大石への想いは相
当でいらした様ですね。」
吉原「江戸の元禄十五年あの赤穂義士が一族郎党その宿願を果
たした事実に、人間の良識として正当であったか、又否
か、時代が変わっても、世の論議の的であるのは確かで
すね。しかし人一人命を賭けてあの様な、事件に関わる
と云う事は、その一族に数多の災難が降りかかる事です。
にも関わらずああまでしてその目的を果たされた。」
関谷「その行動の中に日本人の中に、かって存在した言動と行
動の一致の美学を見い出した訳ですね。」
大林「人間の生き方の美学、それともっと大切なものは、国柄
を愛し、その民族性、又日本の魂の崩壊しつつある事に
対する危機感。後世の同胞に対する責任感でしょう。」
吉原「方法は色々有りますが、あの日本的な切腹が三島氏の一
番あの方らしい効果的作法であり形だったのでしょう。」
司会「自分の言動、行動に命を賭けられる真の政治家、文化人
教育者がどれだけ存在するでしょうか。」
(次号へ続く)
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平成十五年五月二十五日朝八時… 昭和四十五年十一月二十五日、東京市ケ谷で有名な《三島義挙》が行われた。 【三島由紀夫】 |
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