雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第一
京の都の片隅に戻り橋なる古びた橋があった。今日も朝から篠突く雨で堀川の水嵩が増して、周辺の郷人には難儀な事であった。「うわぁ〜っ。助けてくれっ。」「ひっ。」数人の深手を負った武士が駆けて来た。対岸の渡り口からは、おどろおどろしき松明の灯りが群れ、あざ笑う声が響いてきた。高笑いの主は深い闇と靄に包まれて定かではなかった。
京の都の一角に塀の高い武家屋敷があった。その頃の武士の住居としては、一際贅沢な造りを見せているのは、そこの主の権勢を誇る、縁が伺われた。夕べともなると門前には二〜三人の武士が見張り番をして居た。時々玄関あたりには使用人の行き来する音も聞こえた。

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第二
大広間は明るく瞬いていた。「殿、今宵は何かと嬉しげでござるのう。」中央に小柄な武士が寛いでいた。側には身の丈六尺五分にも及ぶ程の大丈夫が、数人とり巻いて居た。「そうよ。今日はのう、お上より、たいそう見込まれての。男と見込まれ、仰せつかった。」「何でござろう。」「ふふっ。知って居ろうが。」「金時め。口が上手よのう。」「殿もおだてに弱い。はっは。」「どう云う事じゃ。」「いいえ、殿は男気が強うござる。」「お前もおだて上手か。」「滅相もござりませぬ。」「只、心配でござりまする。」「貧乏籤は嫌でござる。」「何が貧乏籤じゃ。」「困った時には、直ぐ頼光殿。頼光殿じゃ。」「余りに易々と、殿を使い居られる。」「殿上人が憎うござる。」

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第三
「何だぁ。貞道は、もしかしたら臆病風かい。」「其れは勘ぐり過ぎじゃ。何が恐いか。ふんっ。」「ようし、其の根性を見届けてやる。」「止せ、殿の御前じゃ。」「殿、お許しを。一つ無礼な金時めを、成敗致す。」
「なにを。」「来いっ。金時。」「こいつは面白い。」「殿、困ります。こんな夜に。」「まぁ。余興じゃ。」「はっき、よい。」「仕様が無い、やつ等め。殿も、殿じゃ。」二人の巨大漢が、座敷で相撲を取り始めたから堪らない。大きな部屋もひとたまりも無い。こっちの家具、あちらの御簾を引っ掛けるやら、ぶっつけるやら。「わぁ、っ参った、参った。流石金時じゃ。」「足柄山の大将には負けよるわ。」「わっはっはっはっはっは。」「喧しいのう。」

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第四
その時突然廊下が騒がしくなった。
「殿、殿。こちらでござるか。」「何事じゃ。」「ただ今、卜部末武帰り申した。」「おうっ、ご苦労。」「先程、平基近殿、一条戻り橋より、瀕死でご帰宅とか。」「むっ、先を越されたか。」「しかし、手負いか。其れはご無念でござろう。」「基近殿以下腕に覚えのある者達が、夕刻一条戻り橋に向かったのは儂も聞いたぞ。」綱が興奮して語った。「お上は我が殿より、平氏如きをお頼みか。」「これ、其の様な事を申すでない。」
「いいや、そうじゃあるまい。」「小手調べじゃ。一番頼みになさって居られるは、我が殿じゃ。」「そうじゃ、そうじゃ。」

『落語古典噺風一寸法師』
京の都の一角にある、源の頼光の館に夕刻、尋ね来た者があった。若い武士と、うら若い女性であった。武士は殿上人の紹介状を手にしていたが、小姓三王丸が取次いだ。「殿客人でござる。」「はて、何の用向きか。」「名は本人が直接申したいとの事でござる。」「まあ、良かろう。通せ。」「何事でござるか。」そこへ遣って来たのは、帰宅前の綱であった。「客人だ。」やがて案内されて、先程の武士が、うら若い女性と入室して来た。「頼光さま、折り入ってお願いしたき事がごさいます。」「兼連殿のご紹介か、よい申してみよ。」「有難き幸せに存じまする。」「では、名を申せ。」「大変失礼致しました。私本名は存じません。幼少の頃より、じじ、ばばが、一寸法師と申しておりまする。」「うあっつはっつは。嘘を申せ。余をたばかるか。」武士は頬を真っ赤にしながら、きりりと眉を逆立て。「嘘ではございませぬ。」そこで先程のうら若い女性が、「申し上げます。」すかさず武士は、「姫はしばしお控え下され。」何やら武士の身体が一寸程縮んだ様に見えた。頼光は「分った。で何の用か。」「はい、私を頼光様の四天王の一人に、お加え下され。」「うあっつはっつは。」一座の豪傑共は、おおいに笑ったそうじゃ。武士は頬を真っ赤にしながら、屈辱に耐えていたが、良く見ると、またまた一寸程身体が縮んだ様である。「そうか、其れは儂も嬉しい限りであるが、四天王は四人で四天王じゃ。」「五人じゃ五天王かい、四天王補佐。では如何じゃ。」すると、耐え切れず益々頬を赤くした武士は、するすると身体が縮んでしまい。到頭一寸法師になってしまったそうな。

“巷談調納涼噺”
日本の文化の一つに講談と云う話芸があります。私も多く知って居る訳じゃ有りませんが、素人風情の手作りですので、僭越ながら“巷談”と行きましょう。炎天下ですので、少し涼しめ。摂氏19℃位の設定です。何しろ素人ですので、尻切れ蜻蛉…かな?
漆黒の闇と謂うものは現在の都市部では、少なくなってきた。しかし、跳梁跋扈が常とされる時代には、月も星も無い夜は、全く墨一色の世界であった。京の都と云えど夜は田舎と同じで、暗い色彩の無い闇であった。都の中程に大きな武家家敷があった。三方を堅牢な塀で囲った佇まいは、武士としては裕福な造りであった。表の門は夜更けまで、赤々とかがり火が焚かれていたが、灯りが燃え尽きる頃には、屈強な門番の男達も眠りについてしまい、起きているのは竈の残り火と、縁の下の鳴く虫位である。長い廊下を渡って行くと、奥には屋敷の主、頼光の寝室があった。ふと目を醒ました頼光が「むむっ。山犬が吠えておる。」「何事であろう。」暫くすると、遠くから・じりっ、じりっ、じりっ・と地面を引きずる音が近付いて来る。ふわりと生暖かい風が吹き込んで来た。頼光が気が付くと、二間程離れた所に人陰が現れると、じっとこちらを見下ろしていた。「何者じゃ。」それは痩せ細った老僧であった。僧は無言の侭、床の一部を見据えていた。やがて「儂は裏山の庵に住む、放厳と申す坊主でござる。」それを聞くと、頼光は(はて、裏山に庵などあったであろうか。)頼光の怪しむ様子に落ち着きの無い僧であった。頼光はがばと立ち上がろうと試みたが、全身何かに縛られたかの様に身動きが取れないでいた。「儂に何の用じゃ。」すると老僧は主の布団の上辺りをじっと見つめておった。「狐狸の仕業じゃな。成敗してくれる。」主は床の間の大刀を手にしようと焦ったが、矢張り身動きが出来ずにいた。「綱は居るか。」思わず叫んだ。隣室で宿直をしていた、四天王の綱が、最前より怪しい気配を感じて居ったが、此処ぞと引き戸をがらりと空けた。…………………………つづきは今考え中です。ので何れまた、何時の日か。「それでは、皆様ごきげんよう。」

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第五
その時奥から、主頼光の夫人の足音が聞こえて来た。
「これは、これは。殿方衆。先程から何の騒ぎでござりましょう。」「おうっ、奥方様。ご心配無く。」「又々手柄話しでござりましょうか。物騒な。おお、恐や。」「武辺者の妻なれば覚悟は出来ているつもりじゃが、殿。お危のう事は程々になされませ。」「なんじゃ、其れが覚悟と云うものか。」「殿、その云い様は、奥様が可哀想でござる。」「ま、奥は下がって下され。此処は儂が仕切らねば。」「おうっ、奥方様。悪党の成敗は、御殿のお出でになる程ではござりませぬ。全てこの綱にお任せあれ。」「綱よ、出しゃばるんじゃ無い。」「綱殿、宜しくお願い申す。」やがて、女房殿は奥へ消えてしまわれた。「綱よ。」「まあ、殿此処は私めにお任せを。」「そうか、そうまで云うのなら頼光、綱に一任しようぞ。」「これ、三郎。あれを持て。」頼光の後ろに侍していた三郎が隣の部屋へ引き下がると、何やら技物と思しき物を抱えてきた。「おおーっ。」一同の男共が叫んだ。「鬚切りじゃ、きっと。」誰やらがそっと云った。「そうじゃ、鬚切りじゃ。儂の右腕じゃ、持って行け。」

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第六は
このシリーズは話のキレが悪いので突然ですが暫く中止しましょう。
(この話は突然終る可能性有り。要注意!!)の通りでした。

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第六
頼光の屋敷はいつになく賑っていた。
賢きあたりから、最近古都を騒がす鬼共の悪行を懲らしめ成敗する旨、命が下ったのである。主の部屋には四天王をはじめ、腕に覚えのある、武者共が居並んでいた。
「おお〜っつ。」一同の男達が叫んだ。「鬚切りじゃ、きっと。」誰やらが云った。「そうじゃ、鬚切りじゃ。儂の右腕じゃ、持って行け。」
「ははーっ。喜んで借り受け致しもうす。」「いや、返さんで良いぞ。存分に使え。綱よ。はっはっはっは。頼もしい奴よのう。「綱め、旨くやりおった。ははは。」「ずっと狙って居たのじゃろう。」仲間内の妬みや、共に喜ぶ声を受けて、「では殿。明日渡辺綱悪鬼成敗に参りまする。」「よし、行け。頼光の四天王の力、大いに示せ。!!」「はっ。」同輩の目をよそに、恭しく天下の名刀「鬚切り」を捧げつつ、引き下がった綱であった。(こんな物小説じゃ無い!ハイごもっとも。私的な日記中でのわがまま、平にご容赦。)

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第七
「綱様、宜しいのでござりましょうか。」小者の才一が少々心配気に後ろから声をかけた。「まあ、敵を制するのは、何事によらず先ず勢いじゃ。この綱、負けはせぬ。増してこの鬚切りが手に入った。百人力じゃ。」「それは、そうですが。」「明晩、手下の者一同集めておけ。」「はっ、承知いたしました。」
翌日は朝から雲一つ無い良い日和であった。綱の自宅は頼光の屋敷から少しばかり離れた、同じ敷地内にあった。
こじんまりした綱の館は、勿論頼光のそれには、及びもつかなかったが、竹垣に囲まれた小庭の道を進むと井戸端があり、女達が世間話しに夢中であった。それを先程から向こうを向いていたので、綱の女房には気付かなかったのであろう。

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第八
綱と知って顔見知りの女房が、茶目っ気を出した。
「時に…天下一のお武家様と云えば頼光様。でございましょうか。」「何を今さら、当たり前の事を。」「其の数在るお家来衆と云えば四天王。」「其れがどうされました。え、」「矢張り一番お強いのは卜部さまかしら。」「ふ〜ん、そうかしら。」「お咲さま其れは、ちと違いませぬか。」「太刀を取ってはそうかも知れませぬが、力自慢はそれ、金太郎殿こと、金時様じゃ有りませぬか。」一座の女房衆で綱の居る事に、逸早く気付いた女房が、素知らぬ顔に綱をチラと見た。「おや、四天王で一番大切な方をお忘れじゃございませぬか。」後ろ向きで話に夢中の綱の女房は玉を転がす様な声で、からから、と笑った。「何の話しかのう。」思わず振り返った女房は驚いた。「何ですか、嫌ですこと。」

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第九
そんな事には無頓着の綱は
「それはそうと、坊主は元気か。」天下の豪傑も暇があれば、我が子が気になるらしい。
「はい。ご心配無く。貴方様はお出かけでござりましょうか。」
「む。是よりちと、野暮用でな。」「また、野暮用でございますか。」少し哀しそうな女房
肩に手をやり、「心配するな。しかし武辺者の定めじゃ。必ず目に物を見せてやるわい。」「目に物は、見とうござりませぬ。わざわざ、危ない事を望まないでも。…」「はっはっ。其処が四天王の女房衆の辛いとこよ。因果と云うものか。ま、心配すな。」「相手の事は聞きとうございませぬ。恐ろしいだけですもの。」「そう、聞くには及ばぬ。そう云う事じゃ。後は宜しく。頼むぞ。」淡々として綱は屋敷を出て行った。…あの人は何故にお辛い事ばかり、自ら求められるのかしら…
「奥様。」思わず我に返ると、綱の息子が一人、むずがり、縋り寄って来る。「この子も何れは……。」女房は思わずに、途方に暮れるのであった。
(この話は突然終る可能性有り。要注意!!)

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第十
「よし、行くぞ。」街道を三十名程の武士がやって来る。道の左右には葦やら、薄が隙間なくおい茂り、地面は所々ぬかるんで居た。人目を憚り、残照の残る夕刻頃より、手配の者達は落ち合った。「今日の相手は、戻り橋の鬼共か。」「ぞっと、するぜ。」「何じゃ、もう怖じけ付いたか。」「綱殿、それは云い過ぎと云うもの。」「武者震いでござる。」
「しっ。少し口を謹め。」「はっ。」一行は黙々と戻り橋に向かった。何時の間にやら、辺りはすっかり、暮れて一面墨を流した闇となった。やがて半時であろうか、その時ぽっと、雲間から明るい月が顔を出し夜道を照らして呉れた。「有り難い。」早々に橋を渡ると、其処は一面殺気立って居た。すると突然数十間先に松明が鬼火の様にぼっと灯った。「出たな。」騒ぎ出した部下を綱は制した。「戻り橋の鬼共に、物申す。大君の治しめされる、貴き京の都を何故騒がす。源氏の御大将、源頼光様、その四天王の一人、渡辺の綱が、鬼共を成敗致して呉れる。そっ首を黙って引き渡せ。」と大大声を放った。「うっはっはっはっはっは。」突然大きな笑い声が辺りの空気を震わした。

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第十一
「うっはっはっはっはっは。」突然大きな笑い声が辺りの空気を震わした。賊共は五十名は居るであろうか。対する綱は三十名程の配下であった。四天王と云われるだけあって、流石は綱、些かも怯む様子は無かった。先ずはと綱自ら部下を制して数歩前へでた。「此の四天王綱に立ち向かう者は居るか。」すると五尺五分余りの綱の前に立ちはだかったのは七尺余り有るであろうか。大鬼であった。流石、剛胆な綱も目を丸くして驚いた。七尺の鬼が六尺の大太刀を振り下ろして来るのであった。無言で太刀を振り回す鬼は、毛髪は金色で、蒼い眼をしていた。正統な剣使いの技ではないが、綱もその勢いに喰らい付く暇も無かった。ふっと綱の動きが止まった隙に大鬼は、綱の髻(もとどり:とは頭髪を束ねたもののこと。飛鳥( あすか)時代・ 奈良時代には中国文化が輸入されて、冠によって身分の 上下を. 示すようになった。そのため冠をかぶるのに便利な髪型)をぐいっと掴み上げた。宙に浮かんだ綱は(しまった)と思いつつも、必死で「髭切り」を引き抜くが早いか、思いきり斜に払った。

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第十二
「グオーッ」
大鬼の腕は血煙を上げて大刀諸共、地に落ちた。放り出された綱は、窮地を脱して、到頭鬼を倒してしまった。余りにも呆気無い事実に、回りを取り囲んだ鬼共は、蜂の巣を突いた様に混乱しきった。最早綱主従の敵では無かった。残された物は大鬼骸と、しっかりと握り締めた大刀であった。
綱はその大刀を拾い上げると、部下達に持たせ、引き上げる事にした。其の時、一陣の生温かい、怪しい風が、ごぉうっ、と吹き通り、気が付くと鬼の骸は消え失せていた。「おう、大刀は未だ有ったか。」「はい。ございます。」大殿への土産が出来た。
上機嫌の綱であった。

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第十三
「ごめん下され。」
或日、綱は下男の慌ただしい足音で我に返った。
先日、大鬼を仕留めた後、鬼の悪鬼を払う為に、暫く物を絶ち、潔齋をしていた。そんなある日の夕刻に、一人の老婆が訪ねて来た。
「何の騒ぎぞ。儂は今、物絶ちをして居る。」
「はい、それは申し上げました。ご主人の叔母様が、見えられて。手柄話しを、是非冥土の土産にと。」綱は「はて、儂の叔母がのう。」四天王と云われた自分も、本人が知らない身内が居ったのであろうか。

雪当里蝗里時代小説「頼みの綱」第十四
「儂とて木の又から生まれた訳じゃなし、親も居れば叔母も居るじゃろう。」
綱は強いて深く考えず、その叔母なる老婆を招き入れた。
奥の離れに厳重に保管していた獲物、鬼の太刀を老婆に見せた処、老婆は、にたりと笑ったかと思うと、大鬼に変身してしまった。「うはははっ、儂の片腕を返して貰う。」大鬼は大太刀をひっ掴むや、ましらの様に天窓から逃げ去った。天窓をじっと見つめる綱は、一瞬たりとも気を許してしまった自分に、真っ赤な顔をして臍を咬んだ。「嗚呼、口惜しや。悪鬼め、儂を謀りおって。」
その後
……以来数百年の間、渡邉姓を名乗る者は、屋敷に天窓は造らないのだそうな。(アパート、マンションの場合はやたら、天窓を造ると、上階の者と諍いの元となるので特に注意!!!)
(この話も突然終る事にならず…嗚呼よかた!)

そろそろ結婚適齢期??? そろそろ結婚適齢期??? 独自ドメインの取得をするなら