「青山有り」

(1)木が青々と生い茂った山。青峰。
(2)〔蘇軾の詩「授二獄卒梁成一以遺二子由一」の一節「是処青山可レ埋レ骨」から〕骨を埋める地。墳墓の地。
「人間(じんかん)到る所―あり」
(3)唐から伝来したといわれる琵琶の名器の名。
「彼の―と申す御琵琶は/平家 7」gooより

「青山有り」その一

関が原の大地は度重なる戦いに、吹き抜ける風も鼻を突き、息苦しい程であった。「お〜〜いっ。仁也、何処へ行った。」一人の足軽が重い足を引きずる様にして駆けて来た。するとその前に一団の軍勢が立ちはだかって居た。(ちっ。こちらは伊達じゃないか。)思わず引き返そうとする足軽は、退路を阻まれてしまった。(面白い、やってやろう。)未だ深手は負って居ない。多勢に無勢で血祭りにあげられる処、「待てぃ。雑魚は放って於けい。」一団はその一声に、くるりと踵を返した。自尊心を傷付けられた男は、「待てぃ。伊達のスズメ共、逃げるか。」思わず云ってしまって、男は蒼くなった。一団は又引き返した。全身の血が泡立つのを感じた。(よ〜〜しっ。此の命捨てた。)男は、すらりと大刃を引き抜くと、思わずもう一振り小刃をも引き抜いて居た。「むっ。く〜つ。」「はっ。」言葉にならない気合いが行き交い。若い足軽の前に血飛沫による道が開いた。「待て。」尋常の強さではない。増して見慣れぬ刀使いに一団の一人が止めた。「貴殿の姓名を伺いたい。」「怖じたか。」「黙れっ。儂に任せろ。」「貴殿の強さも判った。今関ヶ原の決着は、概ね着いた。此処で無闇に争って何になろうか。」「…。」

「青山有り」その二

「貴殿のご姓名を伺いたいが、」やり場の無い闘志を突然そがれ、男はついに口を開いた。「儂の名は、橘咲造。流浪の剣を大阪方に売った。」「今となっては請け負い主に忠節を尽くすも、甲斐が無かろう。」「…。」「中々の腕前と見申したが、我々の伊達方に、宗旨替えをするお心はござらぬか。」きっと鋭い眼を向けると「如何様にともお任せいたさう。」「おお、お心が定まったか。無闇な殺生も意味が薄らぐもの、拙者伊達藩主政宗公の配下、氏家と申す者。儂の方からお執成し申そう。」「忝ない。」そうこうして居る内に関ヶ原の大地に青白い月明かりが照り、彼方から、こちらから、戦陣に身も心も傷ついた男達が、篝火を頼りに集まり始めた。

「青山有り」その三

「水をくれんか。」精も根も涸れ果てた男達が、暗がりの中の灯火に集まる虫の様にどんどんやって来る。「んむっ〜〜っ。」苦し紛れに出る呻き声に、「痛ェか。」思わず出る労りの声。「ふん。鼻歌よ。ててっ。」「ははっ。是でも痛くねえって。」「たたっ。止しやがれっ。」「はっはっはっは。」先刻の阿鼻地獄が嘘の様な騒ぎだ。「おうっつ。飯だ。」途端に「うぉっ。」雷の様な叫びが上がった。もう、こうしては居られんと、瀕死の男も、ひ弱な男も必死であった。「喰えッ。」是も又地獄であった。話しは後だ、戦場の巨大な胃袋は瞬く間に糧食を喰い尽くしていった。
「おっ、隣の新顔は…。」「氏家殿が関ヶ原で拾い物じゃとか。ご姓名は…。」「橘咲造と申す。」「腕が立つそうな。」「ふっ、些か。」「おい、未だ余り詮索するんじゃない。」「へいっ。」戦場の夜はいつ迄も更けなかった。

「青山有り」その四

此の日男は陣屋に呼ばれた、と云っても軍は旅先で、強いと云っても一介の足軽風情が、藩主の元に直接引き合わせて戴ける筈が無いのは、勿論男の持ち合わせた良識の範疇でも理解出来る事であった。「おう、橘と申したな。」伊達藩家臣の氏家恵造だった。「はっ。」「この程、貴公の事は上の方へも申し上げておいた。その内良い話もあろう。」「はっ。」「その方の身に付けたもので何か当藩に役立てるものはあるか。」「武術を…」「うむ。其れは存じて居る。」氏家はじっと橘の精悍な面を眺めながら。「他はどうでござろう。」男は、相手が何を語ろうとして居るのか判断出来ず、口籠ってしまった。「ふふっ。関ヶ原はもう、終った。それは何を意味するか、存じて居るか。」「…。」男の意識は混乱して居た。「先刻、大殿が云って居られた。もう、武士が凄腕を振り回す時代は終ったのかも知れない。とな。」「先日、そなたの正に凄腕を見せて貰ったが、凄腕は将軍家にこそ相応しい、」「我が殿は、もう、別の事を御考えのご様子。今更、腕っ節を見せても其れは、昨日までの事。」「其処で聞いて見たのじゃ。」

「青山有り」その五

なだらかな街道を多くの旅人が行く。春ともなれば奥州路も、雪解けの便りが旅人の心を和ませる。しかし昨日の暖かさとは裏腹に今日の寒さは、三寒四温の言葉通りにそう駆け足ではやって来ないらしい。彼方の宿こちらの宿の土間で暖をとっている旅人達の話しにも、一時前の冬の時分とは違い、心なしか賑わっている様だ。「父上、これから参る陸前は寒うございましょうね。」「寒さならば広い日の本、我等が旅立った長門の國も、この陸前の國でも冬は冬じゃ。北国といえど人が住み、夏にもなれば花が咲く。寒いと云っても人情まで凍り付く筈も無い。日の本は何処迄行っても、仏がおわす、神がおわす。」「はい。そうでございますね。」十四、五歳の賢明そうな男の子が云った。彼にとって、父であろうその人物は憧れを抱く程の存在らしかった。「この奥州の覇者、伊達様から、わざわざ私のような小身者にお声がかかった。あのお方は一世代生まれ落ちるのが遅かったと嘆かれたそうな。時代を時めく織田殿、関白殿、江戸の大御所様に続くお方である。この度のお声掛かりは我が身にとって、類い稀なる神仏の御計らいと考えておる。」その時男はそっと話を止めた。

「青山有り」その六

それと気付いた少年は思わず振り返った。旅籠の戸が開いたと思うと、旅姿の武士が数名入って来た。「ごめん、宿の者は居るか。」宿の番頭が出て来た。「いらっしゃいませ。お泊りでございましょうか。あ、伊達のお侍さんでございますね。」「そうじゃ。一晩厄介になるぞ。」「これっ。湯を持ってまいれ。」女中の甲高い返事が響いた。「はーいっ。」奥では大量の湯が釜の中でたぎっていた。女中が水で冷ました湯を手桶に入れて忙しそうに持って行くと、一人一人足を洗って行く。「おうっ。気持ちいいぞ。足袋の中も雪解けじゃ。はははっ。」「ほほっ。」其の時、先の父子連れを案内しているらしい、中年の小柄な武士が目を丸くして叫んだ。「おうっ。山崎殿、こんな所で。」「おお、氏家殿か。懐かしいの、三年振りか。ちょっと失礼申す。」父子連れに向かい、「この方々は某の案内申す、伊達家のご家来衆でござる。」「こちらは。」年長の武士が尋ねて来た。「はい。少々お待ち下さい。」振り返ると少し大きな声で「済まぬが早々に部屋へ案内申せ。」「へい。少々お待ちを。」「宿の店先で致す話でもござらぬ。ゆるせ。」「どうぞ、こちらへ。」話は中断されて、一同は奥の座敷きへ通された。

「青山有り」その七

粗末な庭の見える部屋であった。「是は遠路ご苦労様でござった。」「して、こちら様は。」「ご紹介が遅れまして。」「こちらは長門の國より、はるばる奥州の伊達藩、大守のお招きで川村孫兵衛様と申されます。」「川村孫兵衛でござります。」「ほうほう。ご高名は存じて居ります。水利・土木・天文・測量・鉱山にご精通いたす逸材でのう。家中お出でを心待ち致して居りました。」「そうそう。こりゃ春から目出たいのう。」「よう、来てくれなさった。」「開墾、普請はとかく、長丁場。人物も良う出来てらっしゃるのでござろう。」「いいえ、それは買い被りでございます。」どちらかと云うと口下手気味な男は、真っ赤な顔をして否定した。側でそれを見ていた少年は、自分の事の様に晴れがましい気分に心がときめいた。「失礼を。」「おう、亭主か。済まぬ、少々早いが酒の支度をしてくれぬか。」「これは、これは伊達家の皆様。いつもご逗留ありがとう存じます。では、ごゆるりと。」番頭は、いつものそつ無い挨拶で早々に引き上げた。

「青山有り」その八

「川村殿は酒の方は如何でござろう。」「はい。少々」「はっはっは。少々でござるか。少々は
よろしいですな。儂等も少々でござる。」「佐々木殿は、少々多いのではござらぬか。」「はっはぁ。こりゃ、一本参った。」思わず爆笑の一座は盛り上がった。「はっはっは。言葉は便利なものでござる。」「ほんに。」「時に陸前には豊かな田畑が広がってござるそうな。」「豊饒と云えば言えない事もないが、ご存知かも知れませぬが、奥州一の暴れん坊が居る。」「如何に天下無双と云われる我が伊達家の名君も、この暴れん坊には手を焼かれての。」「分かり申す。皆様のご苦労。」「領民の悩みは深い。」「もちろん、御殿もご苦労が絶えない。」「さすが独眼龍様でござる。水利・天文と云えば、竜神様の独壇場。御眼の付け所が違うのう。」「そりゃ、そうさ。はっはっは。」「ご主君の川村様へお寄せの、ご期待も大きい訳じゃ。」川村は「恐れ多い事でござる。」「まあ、お役目の事は後程として、砕けた話が良い。川村殿、召されよ。」

「青山有り」その九

「時に、河村殿は海がお好きか…」
「いいですな。倭の國は、山あり、川あり、そして海洋の民。」
「当藩には三つの宝がござる。」
「ほう、其れは如何なもので。」
男は指を立てながら
「一つ、是は伊達領内の民草である。と、是は御殿の受け売りでござる。」
「ほう、それは、それは。」
河村は楽しそうに語る壮年藩士の顔を見つつ、物思いに耽った。故郷長門の國を発つ時の、輩がらの顔、顔。昨日の様に心に蘇った。
「それでのう。河村殿。」
思わず我に返る河村は」

「青山有り」別伝

涼風吹き渡る仙台湾金波銀波の内海は、漁師達 わだつみの民の庭のようなものである。 

石巻は三陸近郊で、良港として其の名を知られていた。此処石巻から五里はあろうか、

斎太郎節で共に有名な松島は風光明媚な絶景地である。

さてこの日、松島は五大堂近くの、松月庵は貴賓の来訪を控えていた。

近くの瑞巌寺では国主の伊達政宗が、客を招いて茶会を催していた。
瑞巌寺境内は古木松並木で鬱蒼とし、まるで海の底を回遊して居る様な爽快な空気は、

政宗のお気に入りであった。

寺の一堂を借り受け、茶会も滞り無く経過した頃合に、

「川村殿。」

「はい。」

「遥々と、遠く長門の国より、

よう、参って下された。政宗有難く存じて居る。」

「此れは身に余る光栄でございます。忝く存じ上げます。」

「しかし、殿様が太閤様の命で、遥か朝鮮国まで行かれた事に比べますに、

天地の隔たりがござりまする。」

「はっはっは。思い出した。」

「あれは実に気骨が折れた。

今だから言えるが。実に無用な歳月じゃった。太閤殿数々の功績もあれで、
総べて白紙に戻った様なものじゃ。」

何を思い出したか思わず国主の頬に光る物が流れた。

「孫平、未熟者故、罪な事を申しました。ご容赦下さいませ。」

「いや、良いのじゃ、傍若無人の儂とて、人の子じゃった様だ。

哀れなものよのう。人は皆、実に弱い物じゃ。ふはっ。」

「殿、ご用意致しました。」

案内役の佐々木某が一同を促した。
瑞巌寺の渡り廊下を進み外へ出ると、ひんやりと松の梢を渡って来た風が心地よく流れて行った。

汐の香りを胸一杯吸い込むと、海が大好きな政宗の心は晴れた様である。

松島の奥深く入り込んだ島陰や入り江等が、一枚の絵の様に広がり、つい政宗の心は奪われる。

押し寄せる波は穏やかに、外洋の其れとは違い、慈母の子守唄の様に優しかった。

白い小道が本街道から分かれ、松林を縫う様に続いていた。

小さな澤を渡り、間もなく大きな入り江に続いた。

入り江には小さな楼閣が岩陰に設けられ、先程から二十名程の男達が客を待ちのぞんでいた。

「さて、川村殿の土木事業の才は、天下に知れ渡って居る。」

「ははっ。他に技量が無いもので…。」

「天下の伊達の殿様より、わざわざお呼びが掛かるとは、孫平大変光栄で、しかし又恐ろしゅうございます。」

「かっはっは。そうであろうか。」

楼閣の一室からは遠く島陰まで良く展望出来た。

日和も良く、ぬくぬくとした日射しは、部屋の中程まで届いた。

「川村殿は、」

「はっ。」

「はぜは、お好きか。」

「はぜとは、魚のはぜでござりまするか。」

「はははっ。はぜの甘露煮は旨い。殊に松島のはぜはのう。」

「私、食に好悪はございませぬ。寧ろ魚は好物でございます。」

「そうか。好きでござるか。

食は天からの恵み。感謝して食すのが肝要。」

「先の太閤殿は、大変な美食家。若い時より大変な苦労人故ゆえ、食に関する執着も甚だ大変んな凝り様でのう。」

「はい。」

「儂らも、よう聚楽へお招き頂いた。すると正に山海の珍味。」

「はあ。」

「しかし、葵殿は食に関して全て控え目。」

「ははっ、葵殿は流石の天下人になられるだけある。大変な薬師での。常に養生にも大変な工夫じゃ。」

「太閤殿も亡くなられ、葵殿も去り、天下は将軍殿の手の中。」

「もう儂の目の黒い内は双六の賽を振る者は居らん筈じゃ。」

「はぜの甘露煮も民百姓の糧である米も、国の賄いが窮乏しては、天下に回っては行かん。

賄い下手の国主では、民百姓も哀れなものよ。永い戦乱も治まったが、こうぐるーりと伊達領内を

見回しても、肥えておらん。」

「…。」

「承知の通り、上方畿内は如何に世が荒んでいても、様々な産物が豊かに流れて来る。

「そこで伊達領内に多くの殖産を計ろうと考えた。」

藩主政宗公の話は続いた…

「青山有り」回顧

此の日男は陣屋に呼ばれた、と云っても軍は旅先で、強いと云っても一介の足軽風情が、藩主の元に直接引き合わせて戴ける筈が無いのは、勿論男の持ち合わせた良識の範疇でも理解出来る事であった。

「おう、橘と申したな。」伊達藩家臣の氏家恵造だった。

「はっ。」

「この程、貴公の事は上の方へも申し上げておいた。その内良い話もあろう。」

「はっ。」「その方の身に付けたもので何か当藩に役立てるものはあるか。」

「武術を…」「うむ。其れは存じて居る。」

氏家はじっと橘の精悍な面を眺めながら。

「他はどうでござろう。」

男は、相手が何を語ろうとして居るのか判断出来ず、口籠ってしまった。

「ふふっ。関ヶ原はもう、終った。それは何を意味するか、存じて居るか。」

「…。」男の意識は混乱して居た。

「先刻、大殿が云って居られた。もう、武士が凄腕を振り回す時代は終ったのかも知れない。とな。」

「先日、そなたの正に凄腕を見せて貰ったが、凄腕は将軍家にこそ相応しい、」

「我が殿は、もう、別の事を御考えのご様子。今更、腕っ節を見せても其れは、昨日までの事。」「其処で聞いて見たのじゃ。」

男は、ぽつねんと

「青山有り」その後一


奥州の片田舎、石巻の役人詰め所に男は居た。ここは鄙びた割りに朝市が立ち、朝夕街中は賑わった。男は、ぽつねんと役人の雑務を、こなして居るが、こんな退屈な日々は彼にとって苦痛の連続であった。

あの日あの時、自分は何故刃を納めたのか。

奉行頭の氏家の申す通り、関ヶ原は終わった。其処迄だった。

くる日もくる日も、男は泰平を悔やんだ。その後大阪の他幾つかの大乱が続いた。

武辺者の自分を拾ってくれた我が殿は、自分の腕を知りながら、何故か一向、戦場の花道に取り立てては呉れなかった。自分の生きる場は、武士としての死に場所は…。

男は判っていなかった。己の並外れた強さを。戦場で個人が余りにも強すぎる事は、その集団に必ずしも福をもたらさなかったのかも知れない。制御し難い殺人機械は、手に余るものである。かと云って手放すのも不安は残るし、良策ではなかろう。始末に困る訳であった。世の中は泰平を歩み始めた。時代は変わりつつあるのであった。

「口惜しい。無念じゃ!!」剛腕橘咲造の嘆きがあった。

お〜〜いつ。大変じゃ。
「青山有り」その後二

北上の畔は水が濁って渦巻いていた。昨夜から降り続く雨は、人々の不安な心を休ませてはくれなかった。降りしきる中、蓑を着た男が転びそうになりながら駆けて来た。「お〜〜いつ。大変じゃ。」「何じゃ。」

「どうした。」「大変じゃ。普請奉行の川村様がのう、丸太ん棒に挟まれて、うん、うん云ってござる。」

「なにっ。」一同すわっと立ち上がった。小侍の橘も蓑を振り捨てて走った。

「どっちじゃ。早う行け。」十五人程の役人や人足がばらっと駆け出した。

「こりゃ、大変だ。」普請現場の資材置き場まで来ると、壮年武士が、腰を丸太に挟まれもがいて居た。人足の数人が助けようとしたが、中々思うように行かないらしい。「儂に任せろ。」飛び出した橘は丸太の隙間に自分の体を捻り込むと全身で資材の山を押し上げた。ぎしぎしと音を立てて、瓦礫は動き出した。

「忝ない。」

ご無事で。
「青山有り」その後三

「川村様。」「川村様、ご無事で。」

「嗚呼、忝ない。」太い右腕を差し出すと、意外と無事な様子に、橘は救い起こしかけて、一瞬心と体の動きが鈍ったのを自覚した。橘は相手に悟られない様に、何喰わぬ顔で作業を続けた。橘の動きが一瞬止まる事には訳があった。

この僅かの間に男の押しと止め切れない、心の揺らぎ、葛藤があったらしい。ジェラシーであろうか。男は心の揺らぎを恥じた。(青山あり、人様々。)

武士として尋常ではない我が身の刃の技量。其れが一向に報われない焦り。そして武士と云うより、技士、学者としての男は、一躍人望を集める。

「むむっ。此れも人生。」微妙な男心を見抜いたのか川村は、爽やかな笑顔で橘に篤く礼を述べた。

「青山有り」その後四
「橘殿。」日和山は近隣でも風光明美で、名が知られて居た。

日和山の中腹にある、名も無き山荘に橘は居た。「過日は、橘殿には世話になり申した。」「かっ。」男は思わず自嘲を面に見せた。

「如何致された。」「此の橘。生まれてこの方、人を斬る技のみ身に付けて来申した。今更人助けなど。」柔和な目をした川村は、

「誠は誠なり、何の恥じる事もあるまい。」男はじっと鋭い眼差しを相手に向けると。「儂を買い被り居る様で。」「何のそうも有るまいて。」

「父上。」「うむ。出来たか。」少年は川村の子で有ろうか。

「茶でございまする。」「く、忝ない。」

窓外の高い杉木立の中から、山鳩の重苦しい声が聞こえて来た。

思わぬ言葉に橘は
「青山有り」その後五

「橘殿。剣は人を斬る為に有るものでござるかな。」思わぬ言葉に橘は一瞬目を丸くした。此の男は何を云わんとするのか。

「儂、川村も武士の端くれ。北上の河普請を御殿より賜わって居るが、此の通り、一振り腰に差して居る。昔から剣は武士の魂と云われるが、武士の魂とは果たして、人を斬るばかりが本願か。」

「……。」「お判りじゃのう。」

「人を斬る、斬らぬも其処に心が無ければ、無情の世界でござる。武士の魂を帯し、偽わりの無い清らかな心で、人を生かす道を、儂と共に歩んで見られては。」

「……。」「大殿の御心も其の辺でござろうと儂は思う。」

「くはっ。…ふはっ。」「どう、為された。」

大汗が吹き出した

「青山有り」その後六
男は沈痛な面持ちで「川村様、戦國の世に生まれ、武道。と云うより修羅一筋の道が某の日々でござりました。」

「己の栄達のみを考え、無道を歩んで来ました。」

「…。」「此れより先、こんな私でも何ぞ歩むべき道が残されて居るのでござりましょうか。」「はっはっは。何のご心配はござらん。」川村は目を閉じると。

「人は皆、修羅の道を歩んで居ても、精々御仏の手の平の上じゃ。」

「…。」橘は川村孫兵衛の人柄と人物の大きさを感じた。橘の最前と目の色の変わり具合に気付いた川村は、

「さ、橘殿。此処らで武辺話しを聞かせて下され。」

忽ち橘は全身から大汗が吹き出した。

「うっは。此の橘づれの武辺話しなんぞ、何の酒の肴にも成りもうさん。」

「何の一度聞いて見たかったのでござるよ。」橘は焦った。

「はっはっはっはっは。」

青山あり、天地に自分の死に場所は何処にでもあるとか。最近の日本人の多くが、生命尊重と云いながら其の実、人生、人格を余り大事にして居ない。そんな風潮が青少年の悲惨な事件を誘発して居ると思われる。此の作品は、纏まりも無く、たわいの無い作品で、しかも完成されず、著者に見放されて居ます。中々人生落ち着いてペンを…いえ、キーを叩く暇も少なく、何時為せるとも知れない著作の締めが永遠に来ない様な危機感に、此処へ掲載致す所存と成りました。世間の若い何方かに、未熟ながらも愚直で一途な生き方も有り、長い人生其れも又良いではないかと。小生未熟ながらも皆様にご理解頂ければ幸いと思います。(本当は小生大変な気紛れ屋なだけかも…)何れの日にか又この話の完成を見る機会が得られれば嬉しいです。

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